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I はじめに

II 福祉サービス提供主体の使命と経営
 1 提供主体に求められる使命
 2 提供主体における経営

III 福祉サービス提供主体の経営改革
 1 経営改革のあり方
 2 経営改革のプロセス
 3 経営改革の具体的手法

IV 社会福祉法人における経営改革
 1 経営改革の必要性
 2 自己改革の実例
 3 経営改革に対する都の支援

V おわりに

 社会福祉法人の自己改革の実例【資料編】
 設置要綱等


II 福祉サービス提供主体の使命と経営

2 提供主体における経営

★経営に必要な六つの要素

○福祉サービスにおける「市場」は、一般の財やサービスのように、需要と供給の下にサービスの内容や価格が決定される、完全な自由市場とは異なり、サービスの価格が「公定価格」であったり、サービス利用について「利用限度」が設けられているなど、「市場」による価格決定メカニズムが働かない、いわば「擬似市場」「準市場」とも言うべきものである。

○また、福祉サービスは、社会福祉法において「社会福祉を目的とする事業」とされており、その中で、「第一種社会福祉事業」「第二種社会福祉事業」は、事業名が列挙され、その事業の種類に応じて、経営主体が制限されている。

○さらに、福祉サービスを提供するにあたっては、行政に対する施設設置の届出・許可、事業開始の届出・許可等が必要とされ、事業の運営に関しても指導監督権限が行政に与えられている。

○このように、福祉サービスを提供する事業体には、一般の財やサービスを提供している事業体と比較して、法律による規制が存在していたり、完全な「自由市場」ではないなど、多くの外在的制約が存在していることは事実である。

○しかし、利用者・消費者と向き合い、利用者・消費者の多様なニーズに応えるサービスを提供するという点では、福祉サービスも一般の財・サービスと同様であり、サービスを提供する事業体としての経営に必要な要素は共通している。

○サービスを提供する事業体は、その時々の社会経済状況、事業体を取り巻く外部経営環境に対応しながら、利用者に選ばれるサービスを常に提供していくために、事業体の経営に努力する必要がある。

○この事業体の経営は、事業体の「経営理念」を確立し、リーダー(経営者)のリーダーシップの下に複数の「職員」からなる「組織」が「利用者」に対して「サービス」を提供することによって成立しており、「財務」基盤がその行動を支えている。

○すなわち、事業体の経営に必要な要素は、図1のように、「利用者」、「経営理念」、「サービス、サービス提供プロセス」、「組織」、「職員」、「財務・コスト」の六つに大別することができる。

○これらの六つの要素は、「サービスを提供する」事業体の経営に必要な要素であり、非営利・営利を問わず共通している。

○確かに、非営利・営利という意味では、行政や社会福祉法人・NPOと民間企業は異なっている。

○民間企業は、市場原理の中で利潤をあげることが、その事業体の存続のための前提条件である。しかし、民間企業が、単に利益至上主義で、利用者に選ばれないサービスを提供するならば、また、社会的なルール、市場ルールを無視するならば、利用者から見放され、事業体自体が消滅してしまう。

○一方、非営利団体においても、六つの要素を有機的に連携させていかなければ、利用者のニーズに対応した質の高い福祉サービスを提供することはできない。

○このことは、これまで福祉サービス提供主体の中核を担ってきた社会福祉法人においても、同様である。社会福祉法第24条で、「自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、その提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならない」と規定されているように、単なる施設の「運営」から事業体の「経営」へと考え方の転換が求められているのである。

★ 第一「利用者」

○事業体の経営に必要な第一の要素は、「利用者」である。

○社会福祉法では、その第1条において、法の目的を福祉サービス利用者の利益の保護の推進等を図ることにより社会福祉の増進に資することとしている。また、既に述べたように、福祉サービス提供主体は、その使命として、質の高いサービス、利用者満足度(CS)の高いサービスを、より効果的・効率的に提供することが求められる。

事業体経営に必要な要素 (図1)
事業体経営に必要な要素--図1

○そのためには、サービスの利用者、顧客は、誰なのか、何処にどの位いて、何を求めているのかをマーケティングし、各々の人に、どのようにして利用しやすい状態で質の高いサービスを提供できるかを考えていかなければならない。

○また、社会福祉法では、社会福祉事業の経営者が、取り組むべき事項として、情報の提供(75条)、利用契約の申込み時の説明(76条)、利用契約の成立時の書面の交付(77条)、福祉サービスの質の向上のための措置等(78条)、誇大広告の禁止(79条)、社会福祉事業の経営者による苦情の解決(82条)が定められている。

○福祉サービス提供主体は、利用者に対して、利用者に提供するサービスの内容等について、わかりやすく十分な説明を行い、利用者に対して積極的に情報公開を行うことが重要である。

○また、サービス評価等を通じて利用者のサービスに対する満足度などを調査・把握し、利用者一人ひとりの状況、ニーズなどを、組織の戦略策定に役立てる必要がある。

○同時に、サービスの質を向上させるために、利用者から寄せられる苦情や要望等に耳を傾け受け止めるシステムを構築し、サービスの改善、事業体の経営改善に活用していくとともに、利用者の権利擁護に必要な方策、利用者のQOLの充実向上に努めなければならない。

★ 第二「経営理念」

○第二の要素は、「経営理念」である。

○経営理念は、「事業体が何のために存在し、どこへ向かおうとしているか」「事業体が、どのような目的で、どのような姿を目指し、どのような方法で経営をしていくか」を示すものであり、事業体の運営の拠り所、組織の原点を示すものである。

○経営理念が確立、明確化され、それが職員に浸透してはじめて、組織の行動に方向性が与えられる。一人でも多くの職員が理念を共有することにより、その事業体の一員として、どのような考え方に基づき業務に取り組むべきかが明確になり、安定した質の高いサービス提供につなげることが可能となる。

○そのためには、組織目標や計画の達成状況を評価するしくみを組織の中に定着させ、日常業務の業務改革・改善を図っていくことが必要である。

○経営の中で、事業・サービスの目標・計画(PLAN)、実施(DO)、検証・評価(CHECK)、見直し・改善(ACTION)を一連のプロセス(いわゆるPDCAサイクル)として、戦略的課題を抽出しながら不断に業務を見直していくことは、福祉サービス提供主体においても不可欠である。

○このような視点を、事業体の経営全体に徹底させ、提供するサービスの質の向上に結びつけていくよう努力していくことが必要である。

○また、経営理念に基づき、理事長や施設長といった経営者層が将来に向けたビジョンを持ち、リーダーシップを発揮しつつ、事業体を取り巻く外部環境変化に迅速に対応しながら、質の高いサービス提供のために全力を尽くす姿勢を見せていくことも必要である。

★ 第三「サービス、サービス提供プロセス」

○第三の要素は、「サービス、サービス提供プロセス」である。

○福祉サービスの提供主体は、利用者のニーズ・期待に沿った質の高いサービスを継続的・安定的に提供することにより、多くの利用者に選ばれるように努める必要がある。

○そのためには、常に、事業体が、利用者のニーズを的確に把握するとともに、要望・苦情等を吸い上げながら、地域への貢献、地域との連携という点も踏まえ、サービスの改善、リスクの予防のために、自主的・主体的にサービスの創意工夫、質の改善に取り組む必要がある。

○福祉サービスは、人から人へと提供される対人サービスであり、提供されたサービスは、形に残らないものが多い。そのため、提供される福祉サービスの品質を確保・向上させるためには、特に、サービス提供体制の整備、品質管理、安全管理、危機管理のためのしくみが必要である。

○例えば、サービスの標準化(マニュアル化)である。標準化は、利用者のために提供されるサービス品質のばらつきを少なくする効果、苦情や事故を防ぐという効果があり、よりよいサービスを安定して提供することができる。また、マニュアルの見直しを通じて、サービスレベルの向上を図りやすくなる。

○この標準化は、「多様な利用者に対してマニュアルに基づいて画一的なサービスを提供する」ということを意味するものではない。

○その目的は、各職員の経験と勘によって多くの部分が行われがちであったこれまでの福祉サービスについて、個々の業務に関する手順等を標準化し、新入職員の採用、人事異動等を原因とするサービスのばらつきを抑え、無駄な業務手順を省くことで、サービスの品質を向上させ的確にしかも同等のレベルで行われるようにすることである。

○マニュアルの内容は、時代や技術の進歩とともに、利用者のニーズにあわせて適宜見直し、更新・改訂することが必要である。

○それと同時に、一人ひとりの利用者の状態に着目した個別的なサービスは、アセスメントに基づく個別支援計画によってしっかりと提供されることが必要なのは言うまでもない。

○さらに、地域とのネットワークや地域の中での拠点づくりなど、他の提供主体には真似の出来ない、その提供主体独自の特徴的なサービスを創り、経営上の「強み」としていくことも重要である。それを起点にすることにより、新たな事業展開の可能性にもつながる。

○反対に、サービス提供主体として、弱い部分を抜本的に見直し改善・強化するためのヒントとして、同様のサービスを提供している優良な事例と比較してみることも重要である。

★ 第四「組織」

○第四の要素は、「組織」である。

○組織は、使命、目的の下に、複数の職員が集まった協働のしくみであり、その使命、目的を達成するために、組織として機能を果たせるよう、組織の中にチームワークが築かれなければならない。

○そのためには、経営者層が組織の経営理念や方針を明確にし職員に徹底させるとともに、「職員に対する意思決定の明確な伝達、職員の意見の反映など、情報の双方向化」、「組織における各部門の業務内容、役割、責任の明確化」、「各部門の業務に精通した人材の配置と適切な権限委譲」、「目標・計画達成のために効果的な組織づくり」、「課題やそれに対応する方策に応じて部門間の相互連携を図れる体制」などが必要である。

○特に、事業計画は、単なる行事予定ではなく、経営理念に基づいた事業、組織の方向性が把握できるよう、中・長期的な視点での戦略的な事業計画を作成することが必要である。

○利用者のサービスは、単年度で完結するものではない。中・長期的な事業計画を示し、事業体の戦略を示すことで、職員に目標・計画が明確になり、共有化できる。また、職員の業務に対する積極性を引き出し、専門性の向上につなげることができる。

○さらに、事業計画においては、役割分担を行い、職員の専門性・職責について明確にすることが必要である。権限や指揮命令系統を明確にすることで、職員が業務を進めやすい環境が整備されることになる。

○同時に、利用者ニーズにあったサービス改善が迅速かつ柔軟に行われるよう、各部門に配置した人材に適切に権限を委譲することも必要である。

○職員に権限を委譲し、それを明確化することにより、業務に対する、個人、組織の動機づけ(モチベーション)が高まり、提供するサービスの生産性の向上にもつながることが期待できる。

★ 第五「職員」

○第五の要素は、「職員」である。

○福祉サービスは、対人サービスであり、そのサービスのレベルは、職員の知識・情報、技術・技能など、能力と行動力を兼ね備えた職員の資質に依っているといってもよい。そのため、職員が、その専門性を基に、目的を持って働けるよう、職員が活性化し、生き生きと働ける環境を整え、仕事の達成感、仕事の楽しさ、やりがいを感じてもらうことが必要である。職員の仕事への意欲や自信が高まり、職員の満足度(ES)が高まることは、サービスの向上のための大きなパワーへとつながる。

○そのためには、職員採用、職員配置、人事・給与制度等において、能力や仕事の評価で責任を与える制度を構築し、全体をリードできる人材、現場の発想により自らサービス向上に向けた課題発見や改善ができる人材を育成していかなければならない。

○利用者本位のサービス提供という、福祉の新たな時代に必要とされる人材は、自らの役割を認識し積極的に課題に取り組む人材、自己管理・自己開発のできる人材、経営感覚を持って行動できる人材、サービスを総合的に調整できる人材等であり、事業体の各層において、福祉サービスにおける経営の視点を持ち、経営能力、スキル、マネジメント能力を持った、いわばコア人材が必要である。

○このような人材を育成するためには、採用、昇進、育成といった組織全体の人事施策の中で、人事・給与制度を含めたキャリアアップのしくみ、公平性のある評価、職員一人ひとりの能力開発や計画的な人材育成のための研修など、職員自身にとって将来の見える総合的なしくみを構築することが必要である。

★ 第六「財務・コスト」

○第六の要素は、「財務・コスト」である。

○従来、措置委託費で運営されていた福祉サービスの事業体は、サービスの効率化や質の向上へのインセンティブが働かず、利用者のニーズに向き合うのではなく、行政の顔を見たサービスの提供になりがちであり、運営も行政依存型になりがちであった。

○今後は、福祉サービスにおいても、事業体の経営にあたってコスト・財務の視点を持つことが重要である。事業体として、コスト、財務を意識しながら、サービスの質を向上させ、いっそうの創意工夫と経営努力を行っていくことが求められているのである。

○そのためには、年度ごとの決算について分析を行い、次年度以降の経営計画の策定に反映させ、予算作成に際しても、組織の事業計画を反映させ精査を行うことや、中・長期的なサービス展開を見通した財務計画を立案し、予算管理を行うことが求められる。

○また、環境の変化や経営状況の変化に対応するために、計画的な予算執行や物品の在庫等の管理などを、適切にチェックする担当を置き、できるだけ短いスパンでの経営状況を把握・確認するしくみが必要である。

○損益状況、資金状況を確認し、経営者層や経理責任者等が状況把握を行うことにより、きめ細かな経営分析を行うことができる。また、職員に経営状況に関する情報提供を行うことで、コスト削減や効率的なサービス提供に関して意識を喚起させる効果も期待できる。

○さらに、社会福祉法第44条では、利用希望者や利害関係者に対する財務諸表等の開示が義務づけられており、事業体としての事業内容の透明性を確保するとともに、利用者の選択に資するために、情報公開・情報提供の体制整備を行う必要がある。

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