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I はじめに

II 福祉サービス提供主体の使命と経営
 1 提供主体に求められる使命
 2 提供主体における経営

III 福祉サービス提供主体の経営改革
 1 経営改革のあり方
 2 経営改革のプロセス
 3 経営改革の具体的手法

IV 社会福祉法人における経営改革
 1 経営改革の必要性
 2 自己改革の実例
 3 経営改革に対する都の支援

V おわりに

 社会福祉法人の自己改革の実例【資料編】
 設置要綱等


III 福祉サービス提供主体の経営改革

1 経営改革のあり方

★経営改革の意義

○事業体が、その活動を維持していくためには、これまで述べたように、「利用者」、「サービス、サービス提供プロセス」、「経営理念」、「組織」、「職員」、「財務・コスト」、の六つの要素を有機的に連携させた適切な経営が必要である。

○言葉を換えれば、経営とは、事業体の使命の達成のために、経営資源(人的資源「ヒト」、物的資源「モノ」、財務的資源「カネ」)を効果的・効率的に活用することであり、そのためには、事業体において、トップマネジメント機能と経営基盤を確立することが必要である。

○トップマネジメント機能とは、「利用者」の数やニーズなどの動向、他の提供主体の動向、福祉サービスの制度変更などの外部経営環境を踏まえて、経営者が事業体の「経営理念」や経営目標を明確化することで、「職員」の意識改革を促し、事業体の行動に方向性を与えることである。

○経営基盤の確立とは、事業体内部の経営環境(経営体制)を整備することであり、これには、大きく分けて 1)サービス、2)組織・職員、3)財務・コストの三つの基盤がある。

○第一の「サービス」の基盤整備とは、提供する「サービス」の品質を維持、向上させる体制やしくみを、事業体の「組織」内に構築することである。既に述べたように、福祉サービスは対人サービスであり、目には見えない、一度提供されると形としては残らないという特徴があるため、サービス提供のための体制整備、サービスの品質管理、安全管理、危機管理のためのしくみの構築が特に重要となる。

○第二の「組織・職員」の基盤整備とは、「組織」における各部門の業務内容、役割、責任を明確化し、経営目標・経営計画の達成のために効率的な組織構造を構築し、「職員」の満足度を高めモラールアップを図るためのしくみを構築することである。

○第三の「財務・コスト」の基盤整備とは、長期的に安定した施設経営を行う財務基盤の構築、ヒト、モノ、カネといった経営資源を最大限効率的に活用してサービスを提供するしくみを構築することである。

○このように、事業体がトップマネジメント機能と経営基盤を確立させる中で、当該事業体の問題点や経営上の課題を把握し、それを解決していく一連のプロセスが、経営改革である。

○言い換えれば、経営改革とは、「経営理念」の下に、事業体経営に必要な六つの要素を束ねながら、利用者満足度(CS)を高め職員満足度(ES)を高めるための、事業体改革であると言える。

★ 経営者のリーダーシップと職員の意識改革

○このような経営改革を進めていくためには、経営者層のリーダーシップが何よりも必要である。

○リーダーシップとは、ある状況のなかでコミュニケーションという過程を通して、特定の目的達成のために行動を引き出す能力のことであり、単に部下または部下集団に対する形式的な権限だけではなく、実際に組織全体を管理し、動かしていく力を意味する。

○福祉サービス提供主体の経営者がリーダーシップを発揮するためには、まず、自らが組織全体の経営者であること、すなわち組織における役割や与えられた権限、果たすべき責任を十分に認識することが必要である。そのうえで、組織の使命、理念、目的、目標、方針を示し、その達成のために職員を統括する役割が求められる。

○そのためには、業務に関する豊富な専門知識をもち、適切な指示が出せるよう、職場や業務、あるいは業務改善に精通していることが求められる。また、職員に対する教育や訓練の方法に精通し、円滑なコミュニケーションを図り、人を管理する能力、あるいは職員からの信頼の下に職員が力を十分に発揮できるよう、組織をコーディネートする能力が必要である。

○同時に、サービスの提供者である職員が、組織や事業体の経営理念、目標を共有化し、協働という意識を持って魅力を感じる職場、働きがいのある職場をつくり、問題意識を持ってサービスの質の向上に自主的に取り組める体制を築いていかなければならない。

図2 【事業体の経営(経営改革)のフレーム(基本構造)】
図2 事業体の経営のフレーム

○こうした経営者層(トップマネジメント)のリーダーシップの下に、管理者層(ミドルマネジメント)から直接現場でサービスを提供している一般職員に至るまで、組織を構成する全ての職員の意識改革を進め、組織一丸となって経営改革に取り組んでいくことが、福祉サービス提供主体に、今求められているのである。

★ 利用者のための経営改革

○福祉サービス提供主体の経営改革の目的は、利用者の多様なニーズに対応し、質の高いサービス、利用者満足度の高いサービスを提供することであり、利用者のための経営改革である。

○利用者のための経営改革を行っていく上で、今後、福祉サービス提供主体として、特に留意すべき点を三点上げておきたい。

○第一は、利用者がより質の高いサービスを選択することができるようにするためのサービス情報の提供である。

○現在、福祉サービスに関する情報は外形的な情報が中心で、利用者が必要なサービスの内容や質に関する情報はほとんど存在せず、利用者のニーズと情報との間に、「知りたい情報そのものがない」というギャップ、情報の非対称性が存在している。

○そのため、福祉サービス提供主体は、工夫を凝らしながら、利用者に対してわかりやすく十分な説明を行うとともに、提供主体の事業内容、経営内容など自己情報を積極的に公開し、事業体としての透明性を確保することが必要である。また、サービス評価の結果も含め、利用者の選択に資するための情報公開・情報提供の体制を整備することが必要である。

○同時に、利用者からの苦情や要望等に対応して、サービスの改善、事業体の経営改革に結びつけて行くシステムを構築していくことが重要であり、そのためにIT等を活用した双方向の情報の収集・発信のしくみづくりに積極的に対応することが必要である。

○第二は、提供するサービスの質の向上・改善のためのサービス評価の実施である。

○利用者が、多数の事業者が提供するサービスの中から、自分のニーズに最もふさわしい事業者やサービスを自らの責任で選択するためには、契約制度の下での利用者保護という観点からも、事業者の特性やサービスの特徴や質を比較できる情報、信頼できる情報が必要である。

○同時に、事業者も自らのサービスの質や事業運営上、経営上の課題を客観的に把握し、事業の改善や利用者指向のサービスの質の向上に取り組むことが重要である。

○このような利用者の選択と事業者の質の向上のために必要なしくみが、サービス評価である。

○サービス評価にあたっては、まず、事業者自らが積極的に自己のサービスの点検、自己評価を行い、サービスの内容、質のレベルを把握しながら、業務を見直し、専門性を高めていくことが必要である。

○さらに、中立的な第三者が福祉サービスを評価し、評価結果を利用者や事業者に広く情報提供する第三者サービス評価も必要である。

○第三者による福祉サービスの評価の目的は、その評価結果を幅広く利用者や事業者に情報提供するしくみをつくることにより、サービスの内容を利用者に見えるものとし、利用者が安心してサービスを選択できるようにするとともに、サービス提供主体の競い合いを促進させ、サービスの質の向上に向けた取組を促していくことにある。

○また、第三者によるサービス評価は、事業の透明性を確保し、サービスの質の向上を図るという点で、措置制度が残るサービスにおいても重要である。

○このようなサービス評価を行うことで、事業体の強み、弱みが明らかとなり、サービス、組織の改善点が明確になる。明らかになった問題点については、事業体として、いわゆるPDCAサイクルに基づいて、定期的な検証や改善策を講じることによって継続的にサービスの改善に努めていくことが必要である。

○第三は、利用者の安心や安全を確保するためのリスクマネジメント体制の確立である。

○福祉サービス提供のしくみが契約制度へと大きく転換する中で、利用者、事業者双方において、お互いの権利・義務関係が明確となり、事業者は利用者に対して契約に基づくサービスを適切に提供することが強く求められるようになっている。

○また、利用者の安心や安全を確保することは、提供するサービスの質を確保・向上する前提であり、事故防止対策を中心とした危機管理(リスクマネジメント)体制を確立することは、福祉サービス提供主体にとって極めて重要な課題である。

○福祉サービス提供主体は、サービスを提供する過程においていかに事故を防止するか、不幸にも事故が発生した場合の対応はいかにあるべきか、という組織のリスクマネジメントについて十分に検討し、組織全体で継続的に体制整備に取り組むことが重要である。

○そのために、利用者や家族等に対して積極的に情報を提供し、情報を交換するなどコミュニケーションを図りながら、その意向を十分に尊重するとともに、職員一人ひとりが「安全」ということを認識し、職員と経営者層が連携しながら、風通しの良い、何でも言い合えるような組織をつくることが必要である。

○また、業務マニュアルの作成、職場教育(OJT)、QC活動などを通じた、定期的な業務の検証や見直し、改善が必要である。

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