トップページへ  目次へ

I はじめに

II 福祉サービス提供主体の使命と経営
 1 提供主体に求められる使命
 2 提供主体における経営

III 福祉サービス提供主体の経営改革
 1 経営改革のあり方
 2 経営改革のプロセス
 3 経営改革の具体的手法

IV 社会福祉法人における経営改革
 1 経営改革の必要性
 2 自己改革の実例
 3 経営改革に対する都の支援

V おわりに

 社会福祉法人の自己改革の実例【資料編】
 設置要綱等


IV 社会福祉法人における経営改革

2 自己改革の実例

○社会福祉法人が経営改革を進めるためには、法人・施設の置かれている状況に応じて、それぞれの課題に対応する手法を選択又は組み合わせ、段階を踏んで実施することが必要である。

○課題の解決のためにどのような手法を選択するかは、利用者の状況、法人の成り立ちや法人・施設の経営規模、職員の状況などに応じて、法人・施設の経営者が判断するものである。

○また、同じ経営改革の手法を選択したとしても、そのねらいや目的については、法人・施設によって異なることもあり得ることである。

○こうしたことを踏まえると、経営改革の具体的手法を選択する際には、既に自己改革に取り組んでいる法人・施設の実例が参考となる。以下においては、既に自己改革に取り組んでいる法人の実例を紹介する。

社会福祉法人の自己改革の実例

《トップマネジメント機能の確立とサービス基盤の整備》

【1】A法人(知的障害者通所授産施設)の取組
 「経営理念の明確化とマニュアルの整備によるサービスの質の向上」
【2】B法人(認可保育所)の取組
 「新たな経営理念と経営ビジョンの策定」

《サービス基盤の整備》

【3】C法人(知的障害者入所更生施設)の取組
 「生活支援サービスの地域拠点づくりと施設利用者の個別支援」
【4】D法人(認証保育所)の取組
 「ITシステムを活用したサービスの質の向上」
【5】E法人(特別養護老人ホーム)の取組
 「ISO9001の認証取得によるサービスの品質保証体制の確立」
【6】F法人(特別養護老人ホーム)の取組
 「サービス評価の実施によるサービスの改善」
【7】G法人(知的障害者入所更生施設)の取組
 「『職員行動規範自己評価表』の活用による人材育成」

《組織・職員基盤の整備》

【8】H法人(特別養護老人ホーム)の取組
  「人事考課と仕事給の導入による職員のモラールアップ」

《財務・コスト基盤の整備》

【9】I法人(特別養護老人ホーム)の取組
 「非常勤職員の活用によるサービスの質の向上」


【1】A法人(知的障害者通所授産施設)の取組

経営理念の明確化とマニュアルの整備によるサービスの質の向上

1 なぜ経営改革に取り組んだか

  • A法人は、昭和57年に学童保育を行う団体として発足し、無認可作業所を経て、平成6年3月に知的障害者通所授産施設を運営する社会福祉法人として認可された。現在は、それに加え、2か所の知的障害者生活寮を有し、あわせて法人の自主事業として知的障害者地域生活支援事業を行うなど、長年にわたり知的障害分野で地域とともに歩んできている。
  • 障害者分野におけるサービス提供のしくみは、平成15年4月に、支援費制度への移行により措置制度から利用者自らがサービスを選択する契約制度へと大きな転換が図られる。
  • A法人においては、支援費制度移行後も「利用者に選ばれる法人(施設)」として安定した経営を行えるように、制度移行の動きをしっかり認識し、かつ、資金、労力、時間等の経営資源を無駄にすることなく業務を行うため、コスト意識の徹底、人件費の可能な限りの抑制、職員の職能開発の促進、提供するサービスの開発など法人の意識改革、組織改革を進めていく必要があると考え、経営改革の取組を始めた。

2 経営理念の明確化とサービスマニュアルの整備

 (1)経営理念(基本理念)の明確化

  • 経営改革に向けた一連の取組のなかで、ビジョンの明確化とそれを全職員で実現するためのしくみづくりなど、事業面での強化を図るための前提として、「基本理念」、「法人が期待する職員の姿」を作成した。
  • これらを職員一同で共有するとともに、職員として日々の責務、利用者と接するにあたっての指針を行動規範として職員間で協議し作成した。

 (2)サービスマニュアルの整備

  • 現在、「通所授産マニュアル(個別援助計画作成・実施マニュアル)」、「グループホーム(生活寮)マニュアル」、「ライフサポートマニュアル」など法人全体で180のマニュアルがある。
  • マニュアルは、年2回程度の定期的な見直しのほか、必要に応じて更新・改訂を行うことで、常に業務に密接した最新の情報が掲載された使いやすいものとしている。
  • また、職員指導にもマニュアルを活用しており、職員は業務上の不明な点が生じた場合には、マニュアルで内容を確認するように指導されている。
  • 主なマニュアルの内容は以下のとおり。
  1. 知的通所授産施設マニュアル
    ○個別支援計画作成・実施ガイド、○授産マニュアル、○医療マニュアル、
    ○その他の記載マニュアル(担当が代わった場合のグループ別代行マニュアル、施設外活動マニュアル、要望・苦情マニュアル等)
  2. グループホームマニュアル
    ○緊急時対応マニュアル、○生活費会計マニュアル、○家族対応マニュアル、
    ○その他の記載マニュアル(行事マニュアル、タイムスケジュール、パート職員マニュアル等)
  3. ライフサポートマニュアル
    ○ホームヘルプスケジュール調整マニュアル、○ヘルパーさん用しおり、
    ○ヘルパー養成テキスト

3 どのように経営理念の明確化とマニュアルを整備したか

 (1)経営理念(基本理念)の明確化に向けて

  • A法人では、平成14年4月に「私たちは知的障害を持つ方たちが、地域社会で幸せに暮すことをめざす」という基本理念を明文化し、その持つ意味を、職員間で共有できるよう話し合いを行った。
  • 具体的には、基本理念の考え方を示した小冊子を作成し、職員全員に配布した。その後、基本理念に対する職員の理解度を確認するため、全員にレポートの提出を求めた。
  • レポートの内容から未だに十分に理解されていないと判断された職員に対して、施設長ら幹部職員が面接を行い、理念の共通理解に努めた。あわせて、基本理念を踏まえ、A法人が職員に期待する姿勢、努力する方向性を明確にした。

 (2)マニュアルの整備に向けて

  • マニュアル自体は以前から作成していたが、内容の更新など、管理が十分とは言えず、職員にもあまり利用されていなかった。そこで、平成14年度に、組織を超えたプロジェクトチーム(PT)として「サービス開発チーム」を編成し、マニュアルの整備・管理等を行うこととした。
  • この「サービス開発チーム」は、現場で直接サービスを提供している職員を中心に構成されており、日常業務に関する疑問点や課題等を常時収集し、それらの解決策を法人内部向けの「サービス開発ニュース」に掲載することにより、職員全体で情報の共有化に努めている。
  • また、職員に対してサービスに関するアイデアを募り、新たなサービスとして必要性が高いと思われるものの絞り込みを行っている。
  • 新たなサービスについては、「サービス開発チーム」において研究、仮説、試行、マニュアル化、応用という一連の作業を行い、その質の向上に努めている。

【2】B法人(認可保育所)の取組

新たな経営理念と経営ビジョンの策定

1 なぜ経営改革に取り組んだか

  • B法人は、昭和29年に保育園を開園以来、50余年間保育活動を行ってきた。
  • その間、社会の変化に伴い、障害児保育、0歳児保育、延長保育等を実施してきたが、「保育」固有の直接処遇の部分では、一貫して「こころの保育」を追及してきた。その考えは小冊子にまとめられており、職員は年度当初などに園の保育理念に立ち返ることができるようになっている。
  • また、保護者に対しても、入園時、その小冊子から抜粋したものを配布し、共通理解を図ってきた。
  • しかし、ここ数年来、社会福祉法人会計基準の改正、認証保育所制度の創設、保育所保育指針の改定など、認可保育所を取り巻く環境にさまざまな環境の変化がおきており、施設を運営していくうえで危機感を覚え、経営改革に取り組んだ。

2 新たな経営理念の策定

  • 経営改革に向けた一連の取組のなかで、ビジョンの計画化とそれを全職員で実現するための仕組みづくりなど、事業面での強化を図るための前提として、「経営理念」、「経営ビジョン」、「ミッション」を策定した。

 ○新たな経営理念の策定
B法人の経営理念
 児童憲章とキリスト教の精神をその基とし、「こころの保育」を実践する。「こころの保育」とは、子どもたちのゆたかな成長を願い、「保護者にかわって安全で健康的な環境を与え、あたたかい愛情で、児童の教育と養護の専門的な知識と技術をもった保育士、及びその他の職員の保育のもとに、楽しい日々を過ごさせること」であり、子どもたちの「心身を強く、正しく、美しく、育成していくこと」を目標とする。

 ○経営ビジョンの策定
B法人の経営ビジョン
 「安全」・「安心」・「利便性」をキーワードとし、地域の中で「信頼される子育てパートナー」を目指す。(「利用者本位」の追求と徹底)

 ○ミッションとしての「誓い」を策定

私たちの五つの誓い

  1. 私たちはいつも笑顔を忘れずに、ひとりひとりを大切にして「こころの保育」を行います。
  2. 私たちは「安全」で健康的・衛生的な保育環境の整備に努めます。
  3. 私たちは「安心」して子どもを預けられる職員連携の確立に努めます。
  4. 私たちは「利便性」の追求を心がけ、子育てのサポートに努めます。
  5. 私たちは「保育の質」を高めるため、日々自己研鑽に努めます。

3 どのように策定したか

  • 経営改革を実践するために、東京都の助成を受け、経営コンサルタントの助言を受けながら2年間のスケジュールで進めている。
  • 経営改革への取組は現在2年目であるが、進め方としてまず1年目の前半は、経営コンサルタントから2週間に一度、園長、副園長、主任クラスの職員全員がレクチャーを受け、基礎的な理論、ツールを中心に学んだ。
  • その他の職員については、勤務体系等により全員が一同に会するというのは困難だったが、最低限必ず1回は参加するようにし、経営改革に向けた雰囲気だけでも感じてもらうように努めた。
  • 後半は、前半に学んだことを自分の施設に当てはめるとどのようになるか、アセスメント(評価)基準を作り上げた。
  • 経営コンサルタントのノウハウに基づきこれらの作業を進める中で、法人(施設)の調書ともいうべき「組織プロフィール」を作成した。
  • 「組織プロフィール」の中で、「(1)顧客・市場に関する認識 1)組織全員で共有しているもの」を作成する際に、新たな経営理念等を明文化し、あわせてパンフレットも作成した。
  • また、一連の取組の中で経営理念や将来の園のあり方など、さまざまな課題について、職員全員で考えることのできる時間を作り出すために、今までの業務内容を見直し、簡素化をはかった。

このページのトップに戻る   次のページへ