東京都福祉改革推進プラン(全文)
─ 利用者指向の「開かれた福祉」を目指して ─

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 I 福祉改革の基本方向  II「福祉改革推進プラン」の考え方
III 改革プラン [III-1改革I]  [III-2改革II] [III-3改革III] [III-4改革IV] [III-5改革V]
IV 福祉改革の確実な推進のために  V 分野別事業プラン

 I 福祉改革の基本方向

第1 戦後日本の復興と弱者対策としての福祉

 戦後、焼け野原から再出発した日本は、「東洋の奇跡」とまで呼ばれるほどの高度経済成長を遂げ、その後のオイルショックなどの経済危機を乗り越えて、世界のリーディング・カントリーの一つとしての位置を獲得しました。
 この間、産業政策面では規制と行政主導の保護策による産業育成と貿易の振興が、また、社会政策面では経済成長に依拠して整備した社会保障制度を始めとする各種の制度が、活発な経済活動を支え、国民生活の豊かさを築き、そして維持してきました。

 この経済成長の過程とともに拡充されていった我が国の福祉システムは、戦争によって様々な形態で生活困窮状態に陥った多くの国民の生活をどう立て直すのかという課題から出発しました。社会的弱者に対して、税を源泉とする公的資源を、措置制度という公共セクター中心の手法を通じて集中的に投入し、戦後に山積していた社会的課題をクリアすることを目指したのです。

 昭和21年制定の旧生活保護法では、子どもや障害者も生活困窮者として保護の対象としました。その後、子どもや障害者を生活困窮者一般と区分けをし、昭和22年に児童福祉法、昭和24年には身体障害者福祉法が施行され、そうした中で「措置によるサービス提供」が実施されました。
 さらに、昭和25年には福祉サービスの実施機関として福祉事務所が整備され、社会福祉事業の共通ルールを定めた社会福祉事業法も昭和26年に施行され、戦後の社会福祉の大枠が定まり、いわゆる福祉三法体制が確立されました。これ以降、日本の福祉は、社会福祉事業法体制(税の投入による措置制度、社会福祉法人制度)により進展することになりました。
 昭和30年代の後半には、福祉三法から福祉六法(知的障害者福祉法/昭和35年、老人福祉法/昭和38年、母子福祉法/昭和39年)体制へと充実され、同時期の昭和36年には、国民健康保険法と国民年金法が全面施行され、国民皆保険・皆年金体制が確立されました。

 このように我が国の福祉システムは、戦後復興の足取りと軌を一にして発展していき、社会的弱者(「限られた恵まれない人」)を主な対象として制度化が進められ、高度経済成長などがもたらした潤沢な税財源を裏付けとして、次第にサービス提供の範囲を拡大し、かつ内容や質の充実を図ってきました。
 その結果、極めて短期間のうちに相当高水準のナショナル・ミニマムを築き上げることが可能となったのです。

第2 行政コントロールによるサービス提供システム

 福祉サービスの提供システムとして、戦後復興の中から築き上げられた措置制度は、行政がサービスの供給から配分までの広範囲に渡ってコントロールするものであり、諸外国に比較して行政主導の色彩の濃い我が国の各種の社会システムの中でも、際だって行政介入の度合いが強いものとなっています。
 戦後の社会的課題が山積する状況のもと、社会資源に限りがある中で、相対的低所得層を優先しながらサービスを効果的に配分するためには、行政が優先順位をつけることが不可欠との判断により、この制度は作られたといわれています。
 元来、サービス提供の客体が絶対数として限られた状況のなかでは、スケールメリットを求める民間事業者が福祉サービスの分野に参入することによる市場化の可能性は極めて限定的と考えられていました。
 確かに、措置制度という、必要な人に行政の判断で配分する手法は、当時の社会状況としては適したシステムであったと言えます。
 また、サービス提供の対象者を弱者中心においていたからこそ、行政が限りある資源を優先的に集中投入することが財政的にも社会的にも是認され、公共セクター中心のサービス供給体制を短期間に構築することが可能となったのです。
 税収の伸びに裏付けられ、サービス内容を充実させることにより、行政が定めたスタンダードに基づいて一律にサービスを利用者に供給するこのシステムは、サービス量の確保という面では一定の機能を果たしてきました。
 しかし、この福祉のシステムは、戦後復興の中から出発し、結果的に限られた恵まれない人を対象の中心に構築されたシステムであったことから、日本の社会経済の成熟という状況変化にともない、さまざまな課題を露呈するのです。

第3 社会経済の成熟化がもたらした「矛盾」

 我が国の戦後復興から高度経済成長の歴史は、全国規模での都市化の歴史でもありました。第一次産業から第二次産業への転換に伴う農村から都市への人口移動に続き、第二次産業から第三次産業への移行に伴い大都市集中が本格化しました。わずか50年の間に急速に進展したこの都市化の動きは、家族を取り巻く状況や社会構造にまでも大きな変化をもたらしました。
 農業など第一次産業を支える地域共同体の層と、その解体の上に成立した第二次産業中心に従事する都市型勤労者層とで成り立っていた社会から、都市という存在にベースを置いてこそ成立する第三次産業に従事する層中心の社会構造に推移していったのです。
 それは、家族のかたちという面で見ると、三世代家族から核家族、さらに核家族からシングル世帯へと多様化し、家族のあり様を根本的に変えてきました。戦後の都市型勤労層の原風景であった「サザエさんの磯野家」が囲む食卓は、いまや漫画やアニメの中に見られる例外的な光景となってしまったのです。
 夫婦や個人を基礎単位とした都市型の家族形態の台頭は、核家族を基本とした生活様式をさらに変貌させ、家事の外部化の進行や少子化・高齢化などとあいまって、働きながら子どもを育てることの一般化や、個を単位とした家族のあり様、老後を元気にエンジョイする高齢者の新しいイメージなど、生活についても多様なスタイルを生み出していきました。
 こうした、生活スタイルの多様化の進展と期を同じくして、経済的豊かさをも背景に、住民ニーズの多様化・高度化の流れが本格化しました。

 このような変化は、福祉サービスに対するニーズをも、質・量の両面において大きく転換させることになりました。
 成熟社会の到来と生活スタイルの多様化を背景にして、従前の行政からのいわゆる「限られた人のための給付」との観念は薄まり、「生活を支える消費財としての普遍的なサービス」へと認識が広がるなかで、より高度で多様な福祉ニーズが供給サイドに向けられるようになりました。
 在宅での高齢者の介護などは、家族機能に内包され、家族が支えることが当然のことと一般的には考えられていましたが、家族形態の変化と高齢者の増加とともに、介護などを外部化し、社会サービスとして供給されることを望む声が高まっていきました。さらに、生活の質を高めていきたいというQOLの考え方が普及していくにつれて、高度な介護ニーズが一般化していきました。
 保育サービスについても、働きながら子育てをすることがより一般的になるにつれて、従前のように「保育に欠ける」という要件で行政サイドからニーズを機械的に序列化して一律の保育サービスを提供しているだけでは、住民のニーズに的確に応えることはできなくなり、様々な生活スタイルや就労形態などに合わせた多様な保育への対応が必要となっています。
 このように福祉サービスに対するニーズが多様化・高度化していくにつれて、限られた人に行政措置として「福祉」を一律に提供する既存システムの非柔軟性や非効率性の課題が顕在化していき、新世紀を前にシステムそのものの改革が必要な状況を招いていきました。

第4 既存システムの限界

 急速に進展する高齢化や福祉ニーズの多様化・高度化の流れといった社会の変容が、既存のサービス提供システムを取り巻く環境に大きな影響を与えています。
 今後予想される高齢者の急速な増加は、措置制度だけでは十分に応えられなくなることを明らかにしました。介護を要する高齢者の増大と「質の高い生活を維持するために良質なケアを社会サービスとして提供して欲しい」との声を前にして、行政と行政からの受託者である社会福祉法人で実施する公共セクター中心のシステムで、高品質な介護サービスを十分に供給する体制をあまねく整備することは、効率性と柔軟性の観点から限界があることが指摘されるようになったのです。
 このため、措置制度という公共セクター中心のしくみを根本から改め、介護保険制度を導入して、民間企業の活力などを利用する新しい機動性のある供給システムを構築することにより、市場の中で質の高いサービスを提供していく手法が取り入れられました。しかし、現状では、まだこのような仕組みが十分に機能しているとは言えず、新しい福祉の実現に向けて、さらに改革を推進していく必要があります。
 障害者福祉の分野でも、「住み慣れた地域のなかでいきいきと暮らし続けたい」などのニーズの多様化・高度化にともない、行政が既定の制度を当てはめるだけでは、対応できない状況が生じています。全国一律の福祉制度では、地域の特性を考慮することや限られたサービスに柔軟に対応することには限界があることから、現時点では、ボランティア団体やNPOなどが、措置制度では提供することが難しい地域に根ざしたきめ細かなサービスを展開し、行政サービスのすきまを埋めはじめています。

 さらに、低経済成長社会への本格的移行にともない、ニーズの多様化・高度化を背景にして、社会的コストが拡大し続ける福祉の分野において、行政が税のみを源泉として直接サービスを提供する現行方式の限界が明らかになってきました。
 措置制度は、限られた人への限られたサービス提供を基本に構築されてきたため、税を源泉とする公的資源の集中投入が可能となっていましたが、高度化かつ増大し続ける利用者ニーズを前に、租税負担率や利用者負担の問題も含めて、行政がサービス供給から配分に至るまで介入するシステムを福祉サービスの全ての分野にわたって維持しつづけることが客観的に困難となり、疑問が呈されているのです。

第5 利用者指向の新しい「開かれた福祉」へ <福祉改革の取組>

 成熟社会の到来とともに高度化した利用者ニーズに的確に応えていくことのできる新たな枠組みを整備するとともに、新世紀を迎え、行き詰まりを見せている既存の「福祉」の世界からブレークスルーしていくためには、これまでのしくみを根本から改革し、利用者の視点に立った新しいシステムを構築することが不可欠です。

 従前の措置制度を中心とする福祉サービスの提供システムでは、

  1. 行政のコントロールにより必要な人に傾斜的にサービスを提供しやすい
  2. 行政計画に基づくサービス供給の総枠管理や将来計画策定が容易である
  3. 全国一律のナショナルミニマムの制度を構築しやすい
  4. 外形的な公平性を担保しやすい

 といった長所がある反面、

  1. 利用者ニーズより行政の都合が優先されてしまう傾向がある
  2. 「お役所仕事」と揶揄されるように競争やコスト意識が醸成されにくい
  3. 利用者の高度化したニーズにきめ細かく柔軟に対応できにくい
  4. 給付の性格が強く利用者の「自立意識」が育ちにくい

 などの問題点があることは否めません。

 これらの問題点を内包した既存のシステムを改め、利用者がそれぞれの生活の実態に即して必要なサービスを享受することが出来るよう、福祉サービスの提供システムを再構築していかなければなりません。
 新しいシステムにおいて、社会的に福祉サービスを供給するしくみは、単一的に行政のみが提供するものではなく、

  1. 株式会社など多様な事業主体の参入によって、民間活力を活かす発想を採り入れ「市場」をベースとしてサービスを提供していく分野を中心に、
  2. NPOやボランティアなど地域の力や特性に着目して、きめ細かなサービスを提供していく分野、
  3. あるいは従前の措置制度を維持しながら、行政が提供するサービスの質のレベルアップを図る分野など、

多様なサービス供給手法を組み合わせた多元的なものとしていく必要があります。
 また、負担のしくみとしては、従来の措置制度のように全面的公的負担のしくみのみに限定するのではなく、介護保険のような「共助」の発想も採り入れて、一定の負担の下にサービスを享受するメカニズムを中心に構築することが必要です。

 従って、新世紀にふさわしい利用者指向の「新しい福祉」を実現するためには、

  1. 利用者と事業者の間の契約に基づき利用者指向のサービス提供が行われる
  2. 利用者が自らの責任で選択し、適切な負担によりサービスを利用できる
  3. 地域に根ざした多様な提供主体によるきめ細かなサービスが利用できる
  4. 提供主体の間で利用者指向のサービス競争が活発に行われる
  5. 過度の競争などにより利用者被害が起こらないよう未然に防ぐしくみがある
  6. 判断能力が不十分な方のためのしくみや低所得層へ配慮がある
  7. 契約制度に移行しない分野においても利用者指向のしくみがある

などの新しい方向を目指して実現していくことが必要です。

 このように、サービス提供のしくみを利用者指向で効率的な「開かれた福祉」のシステムに変えていく取組を「福祉改革」と呼びます。
 「福祉改革」の取組は、本年4月に始まった介護保険制度の導入を先駆けとして、今後、さらに本格化させていくことになります。
 「福祉改革」を確実に推進させることによって、戦後復興からの再出発を前提に組み上げられてきた既存のシステムとは発想を異にした、それぞれのライフスタイルに合わせて自らの判断と責任で各種のサービスを享受することのできる、利用者指向の福祉システムを構築していく必要があります。
 社会の各分野において本格化している各種の構造改革とも整合を図りながら、戦後の「追いつけ・追い越せ」の発想とは異なる、だれもが安心して福祉サービスを享受することのできる、21世紀の成熟した日本社会にふさわしい福祉システムへの転換が求められているのです。
 東京都は、今後、こうした大きな展望の下に、積極的に福祉改革の実現に取り組んでいきます。

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