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東京都児童環境づくり推進協議会

「中間報告」

子どもが輝くまち東京

─生きること、

育てること、

働くことに喜びを─ 

(全 文)

第1章 現状と課題
 1 基本的な考え方と視点
 2 最重要課題としての職場・雇用環境の整備
 3 社会の子育て責任
第2章 現状と課題
 1 子育てと仕事に関する環境整備の状況
 2 東京都の現状
第3章 施策の提言
施策の方向性1:
  子育てをしやすい仕組みにかえる
施策の方向性2:
  日常のゆとりある子育て時間を確保する
施策の方向性3:
  親子の絆を強め、
  子どもの成長を見守る期間を確保する
施策の方向性4:
  子育ての楽しみをひろげる
施策の方向性5:
  子育てを応援する気運を高める

第1章 基本的な考え方と視点

 1 子どもが輝くまち東京であるために  その社会が心豊かで魅力にあふれ、一人ひとりの自己実現が尊重されているとき、そしてまた子どもたちの育ちに多くの大人たちの有形無形の関心と愛護の心が注がれているとき、多くの親たちは、子どもを育てることにゆとりをもつことができ、楽しさと幸福感をおぼえ、眉間にしわを寄せて孤独感や不安感に悩まされる雰囲気や、仕事にエネルギーを奪われて子どもに心を向けられなくなるような雰囲気はあまりみられないでしょう。そして子どもを信頼し、人間としての自立を尊重し見守ることができるでしょう。子どもたちは、この世に生を受けたことを享受し、日々の生活に魅力をおぼえ、旺盛にみずからの可能性を確かめ、活気ある感性豊かな人間として育っていくでありましょう。本協議会がスローガンとして掲げ続けている「子どもが輝くまち東京」は、そのような姿を連想させるのです。

 しかし、そのような姿が、世界でも有数のメガロポリスとなった東京都で、近年特に見えにくくなってきていることを私たちは感じます。

 今、我が国の高齢化、少子化の歩みは、昨年1997年(平成9年)、遂に65歳以上の人口が15歳未満の人口を上回るという未曾有の経験を経て、なお一層進行しつつあります。東京都においては、この逆転現象は2年も前の1995年(平成7年)に生じています。昨年の東京都の合計特殊出生率は、全国平均の1.39という低さをさらに超える1.05というきわめて低い水準となっており、少子社会到来の足並みは常に全国より一層早く進んでいる状況にあります。

 少子社会到来を期に、子どもを健やかに生み育てる環境づくりへの関心は、確かに非常に高まりました。1990年代後半からは、国の具体的な政策として、エンゼルプラン並びに緊急保育対策5カ年事業が打ち出され、その積極的な展開が期待されました。東京都においても、かつてなかったほどに、重要な施策の展開を次々に打ち出しています。

 中でも、「子育てと仕事の両立」のための意識変革と施策やサービスの充実は、子どもを健やかに生み育てる環境づくりの主要な方向としてきわめて重視される施策の柱でありました。この重要な施策を積極的に進めるために欠かすことのできない内容が、職場や企業等の雇用環境の整備を図ることです。このための施策については、行政のみならず経営者関係・労働者関係諸団体からもいくつもの提言がなされています。特に、育児休業制度の活用、育児時間の確保、再就職機会の確保などについての必要性、重要性は、行政分野、経済界のみならず、幅広い分野から様々な提言や意見がなされてきました。既にその必要性は言い尽くされたとさえいっても過言ではないでしょう。

 しかし、その実施状況をみますと、後述するようにいまだ迅速に、いや着実にと言い換えても、まだ普及している状況にはありません。しかも、日本経済の低迷はなお続き、厳しい企業経営環境やリストラクチャリングが求められる状況にあって、特に女性の雇用環境への配慮は二の次となったり、徐々に風穴が開きつつあった企業の子育て支援への関心と関与が全く後退してしまいがちな現状にあります。

 また、この課題の解決については、必ずしも国民、都民、市民の高い関心を得ないままに経過しているといえましょう。たとえ、子育てと仕事の両立への関心が向けられても、母親・妻にとっての両立への関心が主であり、今日一層子育ての一翼を担う役割が重視される父親・夫にとっての両立への指向は、全くまだマイナーな段階にあります。とりわけ、「男は仕事、女は家庭」というパラダイムに代表される最も本質的な問題とされる性別役割分担意識を変革し、性差別を超えた真に平等な社会参画や自己実現を可能とするための意識改革は、遅々たる歩みをたどっています。このような状況からみても、「子どもが輝くまち東京」への道のりはまだ険しいものがあります。

 2 最重要課題としての職場・雇用環境の整備 しかし、それ故に本協議会は今ここであらためて児童環境づくりのための最重要課題として、職場・雇用環境の整備に焦点を当て、その重要性を重ねて指摘し、その実現・充実に向けて積極的に提言することを試みます。

 それは第一に、今私たちが生活している東京において、冒頭に述べた子どもを生み育てることに魅力や喜びを感じることができる社会、子どもたちが生まれ育つことに喜びと充足感を覚えることができる社会を実現していくためには、この課題をいささかもないがしろにできないと考えるからです。父親、母親が安心して、ゆとりをもって子育てにエネルギーを注げる環境が整うことがきわめて重要な要件であり、そのために優先すべき課題として職場・雇用環境の整備が全く重なるからです。

 父親の大多数は、被雇用者です。従来の企業家族的、終身雇用的な環境で培われた企業への献身は、父親の家庭や子育てへのエネルギーのみならず、子育てへの関心さえも奪い、特に心理的な父親不在や母子密着は、少なからず子育てや子どもの問題と分かちがたく結びついてきました。また、父親が職場中心の生活を営む過程で、専業主婦の母親の子育て不安、孤立感が一層助長された側面を見逃すことができません。そして、母親もまた、常勤・非常勤にかかわらず被雇用者となる中で、父親が職場中心である限り、家庭内における家事、子育ての負担はむしろ一層増大するという傾向をもたらしてきました。また、子育てを支援する保育環境や職場環境が不十分な中で、育児休業、保育、育児時間、再雇用等々の子育てと仕事の両立に関わる問題が常につきまとい、父親以上に深く子育てにかかわる母親から、心の安らかさとゆとりを失わせる状況が続いています。

 人間形成の上でも、特に乳幼児期の場合、母親の子育てへのかかわり方が子どもの成長に大きな影響を与えることは否定できません。多くの母親が、ゆとりのある時間の中で子どもと十分かかわって子育てをしたいと願っています。その一方で、母親になっても一人の人間あるいは職業人として、仕事を続けたい、そして社会参加をしたいとも願っています。

 現在では、男性も含め、多様な生き方が可能になったといわれていますが、子育てをしながら仕事もと願う親としての当然の願いをかなえる道は厳しく、両立を断念しがちなのが実態です。

 従って、子どもを生み育てる何よりの基盤である家庭に、心の安らかさとゆとりをもたらす上で不可欠なことは、父親の子育てへの関心とかかわりを取り戻し、男性にとっても女性にとっても子育てがしやすく、かつ働きやすい職場・雇用環境の整備に本格的に、本腰を入れて取り組むことです。

 そして第二に、多くの経済的予測に示されていますように、少子・高齢社会の到来の中で、労働力の確保の面から、今後そして特に21世紀において、女性労働力の確保はきわめて重要な課題となることが予想されており、男性・夫・父親と女性・妻・母親とがともに、安心して子どもを生み育てることのできる職場・雇用環境が整うことが、安定した労働力確保の上からもきわめて重要な要件となるからです。

 これまで、育児休業や育児時間を重視してきた企業においては、優秀な女性を被雇用者として確保するための一つの重要な戦略の側面もありました。それが次第に慣行化することが、全体的な雇用環境の整備に結びつくことが期待されました。しかし、従来型の中小規模・零細規模の企業においては、そのようなニーズは必ずしも高くなく、関心も低かったといえるでしょう。とかく、好況・不況の循環の中で、女性・母親の労働力が調整弁として働く側面がみられました。

 しかし、多様な職種・業種が多様に機能する新たな産業社会の構築が始まっています。企業の規模にかかわらず、親が子育ての時をもつ可能性と結びつくフレックスタイム、コアタイム、あるいはSOHO等々のシステムの導入が促進されつつあります。また本格的な国際化が求められている今、そして21世紀の経済構造において、優秀な女性を確保するためという限られた目的だけではなく、広く女性を優れた労働力として育成し、確保することは、経営に深くかかわる課題となるでしょう。そのためにも、女性・妻・母親を、子育てか仕事かの択一選択に追い込ませる職場・雇用環境や雇用慣行を払拭させる努力が必要であり、一層の保育環境の整備、雇用環境の整備が求められます。ここで特に職場・雇用環境の整備の点からいえば、家族よりも職場を重視した従来型の企業家族型慣行から脱皮し、被雇用者の家族生活、親子関係をも尊重した家庭支援型を指向する必要があります。従って、仕事人としての父親、母親にのみ目を向けることなく、家庭人としての父親、母親が安心して、ゆとりをもって子育てにもエネルギーを注げるような、子育てしやすく、かつ働きやすい職場・雇用環境を本格的に、本腰を入れて整えることです。

 家庭における父親の子育て参画について、本協議会はこれまでの報告で常に提言してきました。妻の求めに応じて渋々、という消極的子育て参加から、父親の主体的な努力による積極的参画まで、父親の子育て参画が次第に広がっていることは事実です。しかし、子育て、子育ちの喜びを体験し、子育てというかけがえのない営みが、母親のみならず父親にとっても当然のように日常的に行われることのできるような環境をつくることは、家庭内の努力のみでなしえるものではありません。母親にとっての「子育てと仕事の両立」にかたよることなく、父親にとってもそれが両立できるような職場・雇用環境を整えることが重要です。

 それがなかなか進まなかった背景には、この面での意識改革が男性のみならず女性においても徐々にしか進んでいないことがあげられます。それと同じ程度に、いやそれ以上に、この面での職場や経営者の意識変革が進んでいないことをあげる必要があります。

 

3 社会の子育て責任  このような考え方と視点から、以下に全般的な職場・雇用環境の整備の現状と課題、並びに提言と具体的施策を述べていきます。ここに示す提言は、東京に所在する企業、事業所等の職場の経営者・被雇用者、東京都、区市町村の行政関係者、すべての都民の方々、とりわけ子どもを生み育てている方、そのことで気持ちがゆらいでいたり決心のついていない方に、お読みいただくことを願っています。また、東京に在住していなくとも、職場の関係で東京と深いかかわりをもっている方々、東京に在住していても近隣の県の職場に通っている方々にとっても、ここに提示する内容は様々にかかわりをもっています。

 まず何よりも、この提言は職場や経営者の方々にお読みいただきたい内容です。子育てと仕事の両立にかかわる具体的な雇用環境の整備のための制度や事業のアイデアは、既に相当に示され、主要なものは出尽くしたとさえいえるでしょう。前述しましたように、21世紀を展望した雇用環境の整備は、職場や雇用環境にとって様々なメリットをもたらすといえます。現今の厳しい経営環境の中で、これらの体制を整備し促進することが、即座に何らかのメリットをもたらすかどうかは、近視眼的にみれば把握しにくいかもしれません。しかし、即座のメリットがない限り遅々として進まないという状況が続くならば、それはやはり根本的に職場・経営者の意識を問わざるを得ないのではないでしょうか。

 将来の貴重な労働力であり、すべての人が直面する老後の生活や、年金、介護等々を支えるきわめて重要な人々が子どもたちであり、これから生まれ育つ人たちであるということを、あらためて深く銘記するならば、子育てや介護などの家族の責任と、それをしっかりと支えていく社会の責任とが、車の両輪となって果たされていくことが今そしてこれから一層重要となることを、同時に深く銘記する必要があります。であるからこそ、本格的な高齢社会、少子社会に直面し、経済界、労働界においても、子育て支援にかかわる関心が高まり、21世紀の日本が活力ある社会であることを願う声が強くなっていると言えるでしょう。いまだに子育ての問題を家庭や親にのみ限定して微視的にとらえるならば、職場・経営者の見識そのものを問われることになりましょう。

 このことは、職場・経営者に限らず、国民、都民、市民の意識、男性の意識、そして女性の意識を問うことにも結びついています。職場や経営者が、そしてすべての人々が子育てにかかわる家庭と社会のパートナーシップが求められている現状を深く認識し、子育て家庭への支援という社会的責任をともに担う意識改革が真に求められています。

第2章 現状と課題へ続く