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はじめに

―東京都児童環境づくり推進協議会発足にあたって目指したもの―

○ 本協議会は、「少子社会における東京の子育て支援」をテーマに、東京の子育て環境、子育て支援施策の現状を踏まえつつ、少子化が進む中、東京の特性に合った子育て支援施策のあり方を検討するため、協議を行った。

○ 改めて言うまでもなく、我が国の少子化は急速に進行しており、様々な取組にもかかわらず、少子化に歯止めがかからないという状況である。特に東京都では、合計特殊出生率は、全国で一番低く、我が国の「少子社会」の縮図のような姿となっている。

○ 少子化は、先進国共通の自然現象とも言える。しかし、我が国の急速な少子化の状況は、核家族化の進行、地域社会の変化などから家庭や地域の子育て機能が弱まり、人々の子育てに対する負担感が増大していることや、「職場優先」の働き方が背景にあると言われている。さらに、近年、子育てに対する負担感や不安感を伝える情報が多く提供され、そのことによりさらに少子化を進行させるといった悪循環が生じていると考えられる。

○ 結婚や出産は、個人の選択や価値観にもかかわることであり、決して社会が強制してはならないことは言うまでもない。しかし、そのことを確認した上で、子育ての喜びや価値が十二分に感じられる社会の実現と、子どもを産み育てたいと願う人々が安心して産み育てられる環境を整備することは、行政をはじめ社会の責務である。

○ 以上の認識のもと、本協議会では、「少子化をめぐる状況」、「企業における子育て支援の取組」、「子育て支援について−民間事業者の視点から」の各テーマについて、各委員からの問題提起をもとに、協議をしてきた。

○ 協議の過程で明らかになったことは、これまでの少子化に対応する施策が、必ずしも子育て世代のニーズに合っていなかったのではないかということ、また保育サービスなど子育てと仕事の両立支援の施策が中心で総合的な子育て支援がなされていなかったのではないかということなどである。さらに、これまでは、子育て支援と言えば親への支援に重点が置かれ、なによりも子ども自身の健やかな成長を実現するという視点が弱かったことも明らかになった。

○ そこで本協議会では、すべての子育て家庭への支援の充実、学齢期までを含めた保育ニーズへの対応、青少年期までの子どもの健やかな成長を目指した支援の強化、男性を含めた働き方の見直し、子育てのためのまちづくりの推進など、具体的な子育て支援策について9つの提言を、また、施策を充実させる上で配慮すべき7つの視点の提案を行う。

○ 特に強調したいのは、子育て支援は、行政だけで行われるべきではないということである。行政とともに、地域社会、企業、NPOなど民間組織、一人ひとりの都民が一体となって、家庭や職場、地域、学校などあらゆる場での取組を推進することにより、効率的で効果的な支援が可能となる。

○ 平成15年7月に成立した「次世代育成支援対策推進法」は、少子化の急速な進行への危機感から、次代を担う子どもが健やかに生まれ育成される社会の形成を目的としたもので、自治体と特定事業主に、行動計画の策定を義務づけている。

○ 東京都においても、平成17年4月までに行動計画を策定することになる。本協議会は、今回の提言の趣旨を踏まえ、真に実効性のある子育て支援の行動計画が策定されるよう、強く希望する。

○ 東京の子育て環境を見ると、世帯の小規模化、親の就労形態の多様化、地域コミュニティの弱体化、自然環境の減少、子どもを取り巻く社会環境の悪化などの問題が顕著に現れ、子育てにとって困難で厳しい状況となっている。

○ このように東京は、子育てに厳しい環境にあるが、その一方で、チャレンジ精神にあふれた若い人々が多数集まり、また子育てサービスの提供主体となり得る多様な事業主体も多く存在している。これら大都市としての優位性を最大限に生かし、マイナス面をプラス面に転換した「子育てに希望と連帯感の持てるまち・東京」の実現を、我々は大いに期待している。

I 「少子社会」への対応を考える上での基本的考え方

1 「少子化」に関する人々の様々な認識

○ 「少子化」についての議論はこれまでも活発になされ、「エンゼルプラン」から昨年の「少子化対策プラスワン」まで様々な形で少子化への取組も行われている。にもかかわらず出生率の一貫した低下は解消されていない。

○ これは、我が国では「少子化」について共通認識が確立されていないうえ、子育ての現状や課題について共通認識を持とうとする議論も少ないため、少子化に対する行政の取組が一貫した考え方のもとに強力に進められていないことが原因だと考えられる。

○ 少子化についての認識に関する議論では、例えば「若い女性のわがままがいけない」といった意見の一方で、「こんな社会のありようでは産めるわけがない」「少子化には打つ手がないのだから、これを前提に社会の運営の仕方を考えるべき」などの意見が出され、そこで議論が止まってしまっている感がある。

○ 「少子化」は、医療や保健衛生の向上により、多産多死から少産少死へと人口構造が変わってきた先進国共通の現象であり、「自然現象」であるという見方もできる。しかし、我が国のように合計特殊出生率が1.3を切る状態が長期間継続する状況は、「自然現象」と言えるものではない。

○ 他の先進諸国の例を見ると、政策として強力な少子化対策を実施することが出生率の回復の鍵であると言うことができる。我が国でも、「少子化」についての現実に即した議論を行うことにより、「少子化」を一定の前提としてとらえつつ、少子化がもたらす問題について認識の共有を早急に図り、強力な対策を講じることが重要である。

○ 我が国における出生率低下の直接の原因としては、晩婚化の進行、未婚率の上昇などが挙げられてきたが、さらに最近は夫婦の出生力の低下が指摘されている。

○ 出生率低下の背景としては、女性の社会進出、日本人の働き方の変化などが言われてきたが、近年の夫婦の出生力の低下の背景としては、子育てに関する負担感や不安感の増大、仕事と子育ての両立の困難などが挙げられる。

○ 例えば、我が国では戦後、子育てを当事者(特に母親)だけに任せる風潮が定着した。そして、物質的な豊かさの中で、子どもの成長に関する周囲の期待が高まる一方、地域や親族からの支援は弱まり、子育て当事者の心理的な負担感は非常に大きくなっている。

○ さらに、このような心理的負担感に加えて、世帯収入について明るい展望を持てない状況の中で、経済的負担感を訴える人も多い。また、女性が学校を卒業した後就業することが一般化する中で、就業を中断する、あるいは保育料を負担して就業を継続するなど、子どもを持つことにより損失する利益の大きさも、間接的に子育ての負担感を大きくしている。

○ これらの心理的・経済的な負担感の増大が少子化をもたらし、さらにそのことが将来の社会への不安を呼び、その不安がますます子どもを産まない少子化現象を呼ぶという悪循環を生じていることも見逃せない。

2 東京の特性を踏まえた子育て支援の必要性

○ 大都市東京は、いわゆる子育て世代の人口は多いが、未婚率が高いこともあり、合計特殊出生率は全国で一番低く、1.00を下回るかどうか、というところまで来ている。東京は、我が国の「少子社会」の“象徴”のような姿と言える。

○ 東京は時代の先端を行く働き方や生き方を志向する人が多く、生活の仕方にも多様性が認められるまちである。我が国の首都として、様々な機能が集積し、全国から人とものが集まる大都市に発展している。

○ しかし、子育ての観点から見ると、発展の代償と言える負荷も大きい。都市化・核家族化の進行による地域社会や家庭の養育力の低下、住宅をはじめとする高コスト構造など、東京は子育ての負担感が大きくなる環境にある。

○ さらに、人口の過密と潤いの少ない大都市の居住環境、犯罪に巻き込まれる危険性の高い盛り場の存在など、東京の子どもを取り巻く社会環境は、決して子育てや子どもの健全な発育に適したものではない。

○ また、東京は、第三次産業を中心に、流通、小売、サービス業などの分野において、様々な形態の事業を発達させ、「24時間都市」「眠らない都市」となっている。そうした中で、様々な職種や勤務形態で働く人も増えており、そこから夜間保育など、新たな子育て支援のニーズも生まれている。

○ その一方で、NPOをはじめとする民間組織などの社会資源や、子育てサービスの提供主体となり得る多様な事業主体も多く存在する。これからの東京には、こうした民間の活力を積極的に利用した、子育て支援策の充実が求められている。

II 東京の子育て支援に関する9つの提言

(すべての子育て家庭への支援の充実)

提言1 在宅の子育て家庭も含め、すべての子育て家庭にさらなる積極的な支援と魅力のある集いの場を提供すべき

○ これまでの子育て支援施策は、保育など仕事との両立支援が中心で、在宅で子育てをしている家庭への支援が薄かったことは否めない。また、働く母親と家庭にいる母親を区別して考え、働く母親のための保育の充実に偏っていたとも言える。しかし、働いているかどうかにかかわらず、また母親か父親かにかかわらず、すべての親と子どもを社会が支援するという考え方が大事である。

○ 保育所の利用をしない在宅で子育てをしている母親は、子育ての孤立感と心理的な負担感が高まっており、仕事を持つ母親よりも、子育ての悩みが増大・深刻化しているという調査結果もある。在宅での子育てに対する支援の充実が求められている。

○ 東京都においては、子ども家庭支援センターの設置促進やより身近な子育て家庭の集いの場となる子育てひろば事業など、地域におけるすべての子育て家庭への支援に重きを置いた施策を推進しつつある。このような場は、在宅で子育てをしている親子へのサポートの場として機能している。

〇 しかし、近年増えつつある「ひきこもり」の親など、支援の場に来ようとしない人々への対応を図ることも課題のひとつとなっている。東京都が平成15年度に開始した先駆型子ども家庭支援センター事業は、乳児検診を受診しない家庭や、過去に児童虐待のあった家庭など支援を必要とする家庭への見守りなどを事業の内容としている。困難な課題ではあるが、支援の場に来ようとしない人々に対する積極的な支援、親たちが集まれる魅力のある集いの場をつくりあげることが必要である。

(「親育ち」のための支援体制の整備)

提言2 若い親が「親」として成長するための支援を強化すべき

〇 今の若い親世代は、兄弟姉妹が少なくなっていること、近隣にも子どもが少なくなっていることなどから、子どもと接する経験が不足がちである。また、前述したように、子育てについて地域や親族からの支援を受けにくくなっている。そうした中で、児童虐待など、親としての能力の欠如による事故・事件の多発が認められる。

〇 人は誰でも子どもを持っただけで「親」になれるわけではなく、こうした若い親たちが「親」として育つための、きめ細かく継続的な支援が必要である。

〇 東京都においては、出産前後に乳幼児と親を支援する母親学級などの母子保健事業の整備が進んでいる。一方、子どもと接する経験の少ない親の子育てに関する悩みなどに対応する子ども家庭支援センターや子育てひろばなどの相談や支援の場が整備されつつある。これらの事業の連携を強化し、出産前から子どもが就学時期を迎える頃まで継続する一貫した支援体制の整備が必要である。

〇 支援体制を充実させるには、まず行政組織間、さらには保健機関、医療機関と子ども家庭支援センターや保育所など子育てにかかわる機関の連携の強化が必要である。その上で、母親学級の受講対象を広げ、これから子どもを持とうと考えている若い夫婦や出産後の親も対象とする。また、そうした場で子育てに関する相談の場を紹介するなど幅広い情報の提供を行うとともに、主催者の側も特に支援が必要と認められる家庭については相談機関につなげることも必要である。

〇 それとともに、個々の子育て家庭のニーズに対応できるよう、相談に応えるだけでなく、子育ての価値を認め共感し合う場、日常の支援や啓発事業など、多様なメニューを準備することが求められる。

〇 また、育児は母親がするべきとの固定観念を拭いきれない男性がまだ数多く存在する現状では、特に若い父親への啓発事業も一層必要である。父親に育児への積極的なかかわりを促す場、父親同士のコミュニティの場など、親としての自覚を持たせるメニューが、行政や民間組織の活動において用意されることが望まれる。

○ こうした支援の場で活躍する人材の育成もまた重要である。核家族で子育てをしている親の個別の悩みを受け止め共感することにより子育ての負担感を和らげ、また不安を持つ親に根気強くかかわることのできる力を持ったアドバイザーやサポーターとなる人材が、必要とされている。

(都市型保育ニーズへの対応)

提言3 多様な保育ニーズに的確に対応するとともに、待機児童を解消すべき

○ 在宅の子育て支援策を充実させる一方、依然として増大している保育ニーズにも、的確に対応していかなければならない。低年齢児を中心に、潜在的ニーズを含めた保育所待機児童は増大しており、特に東京においては、長時間開所、零歳児保育など都市型保育サービスの充実が求められている。

○ 東京都は平成13年度、大都市特有の保育ニーズに応えるため、多様な事業者の参入と競い合いの中で東京の保育総体のレベルアップを図ることを目指して、認証保育所制度をスタートさせた。認証保育所は、零歳児保育と13時間開所が義務づけられ、利用者の多様なニーズに対応するとともに、企業が参入する中で運営コストが認可保育所の半分程度となり、急速に普及している。

○ これからの保育サービスには、利用者のニーズに質と量の両面において柔軟に対応していくことが求められている。そのためには、保育の水準を確保しつつ、多様なサービス供給主体の参入が必要であり、その中から利用者が客観的にサービスの質と専門性の充実を判断できるよう、情報公開や第三者サービス評価制度の普及が望まれている。

○ また、東京が24時間活動している大都市であることを考えると、親の勤務時間帯も多様化しており、24時間体制で子どもの受け皿となってくれる保育所の増加も求められている。このような24時間稼動の保育所が増えれば、地域社会や親族からの支援を受けにくくなっている在宅の子育て家庭にとっても、いつでも安心して駆け込める存在になると期待される。

○ さらに、ファミリー・サポート・センターの拡充などにより、地域の家庭が学童期までを含めた保育ニーズに対しての受け皿となる制度をより充実させることも提案したい。

(学齢児童の放課後ニーズへの対応)

提言4 学齢児童が放課後安全に生活できる居場所を充実させるべき

○ 小学生の子どもを持つ働く親からは、放課後の子どもの安全な生活を保障する居場所の充実が求められている。

○ 乳幼児については、認可・認証保育所で、延長保育がかなり普及してきたが、小学生になると同時に、これらのサービスが不足してくる。都内の学童クラブでは、対象年齢を小学4年生までの児童(心身障害児については小学6年生まで)に広げ、開所時間も午後6時までに延長したところが増えつつあるが、これでも十分ではない。親が帰宅するまで子どもが一人で過ごす状況は解消されておらず、子育て家庭のニーズに応えきれてはいない。

○ 今後、学齢児童の放課後ニーズに対応するため、保育所と同様、学童クラブについても、NPO・企業など多様な運営主体の参入を進めるほか、認証保育所などが低年齢の学齢児童を受け入れることなども検討すべきである。

(幼児期からの豊かな心の育成)

提言5 子どもの健やかな成長のため、人格形成の基礎となる幼児期から豊かな心の育成を図るべき

○ 少子社会における子育て支援にあたっては、次代を担う子どもを心身ともに健康な大人に育て上げるという視点からの取組も重要である。

○ 子どもの健やかな成長を図る上で、幼児期は、人格形成の基礎となる非常に大切な時期であるが、最近、社会的不適応を示す幼児の増加が指摘されている。

○ また、学齢期・青少年期の問題行動には、乳幼児期の環境に何らかの要因が認められることが多いと言われる。しかし、乳幼児期からの社会性の育成、近年問題となっている情緒面に問題を抱える子どもの育成など、様々な課題に対しての取組は十分に進んでいるとは言えない。

○ 就学前の乳幼児にかかわっている幼稚園と保育所が、子どもたちの育つ環境をより豊かなものとするよう取り組みつつ、連携して乳幼児期からの「育ち」について研究し、新たな方策を打ち出すなどの取組を行う必要がある。

(青少年期の育成支援の充実)

提言6 子どもを自立した大人に育てるため、青少年期の育成支援の充実を図るべき

○ 学齢期以上の子どもたちにとっても、共働き世帯の増加、核家族化、地域社会の変化などの影響は大きく、子どもたちは、心理的に安定できる「居場所」を失いつつある。

○ 特に学童クラブや児童館を利用する年齢を超えた小学校高学年以上の子どもたちの「居場所」が少ないことが、非行や犯罪に巻き込まれることにつながっているとも言われている。

○ 行政や地域社会は協力して、青少年の「居場所」づくりに取り組まねばならない。さらにそういう場は彼らにとっての安心できる場であると同時に、「活躍の場」となることが望ましい。自分が認められ、他者のために貢献できるという実感は、自立心と社会参画への意欲を育てることにつながると考えられる。

○ また、大人社会全体が、子どもたちが地域の輪に加われるような気運づくりを進めるべきである。大人たちからの、暖かいまなざしと真剣なメッセージ、そして力強いはたらきかけを、反抗しつつも彼らは待ち望んでいる。 

○ さらに、最近の青少年は、成長過程において、社会の一員としての自覚に乏しい傾向にあると指摘されている。加えて、成人しても目的意識が確立されず、職業を持とうともせず、親からの自立もできない青年が増加している。こういう現象とともに、少子社会の中で自分の子どもを過保護に育てる親が増え、成人した子どもを手放そうとしない場合もある。

○ このような現状から、家庭や地域社会、学校など青少年が生活するあらゆる場において、大人たちは、彼らの自立と社会性の育成を図るよう努めなくてはならない。

○ 例えば、社会規範を確実に伝え、それをもとに、社会人としての常識、マナー、金銭の使い方などの生活習慣や、生きていく上での自己決定の力を身に付けさせることが必要である。

○ そして、他者とかかわり合う経験から人への関心や共感を高める心の育成を図ることも大切である。具体的な方法としては、幼児期からの集団での遊び、青少年期までの様々な共同作業や異年齢集団による活動、乳幼児や高齢者などとの世代間の交流が挙げられる。

○ 世代間交流としては、例えば、商店主など地域の中に仕事を持ち日常から子どもたちにかかわる機会を持つ人、地域で暮らす意欲ある高齢の人々、あるいは数年後にはシニアとなる「団塊の世代」と言われる人々などの、生活の中から得られた価値のある知識や経験を子どもたちに伝えるといったような、多様な力を地域における子育てに結集する取組が、各地で活発に展開されることを目指すべきである。

○ さらに、青少年に自立への意欲を持たせ、その親に対しても子離れを促すために、青年の自立を助ける制度の充実が求められる。例えば、親を頼りにせず夢を実現するための奨学金その他の貸付金制度の設置などを行うべきである。また、青年期に入れば当然自立するのだという認識を社会の中に広めていくことも必要である。

(働き方の見直しと多様な働き方の実現)

提言7 男性を含めた働き方の見直しを進めるとともに、企業の育児支援制度の活用促進を図るべき


○ 共働きの家庭が増える中で、勤労者に対する育児支援制度も整いつつあるが、共働き家庭の育児負担が女性に偏っているという現実は否めない。また、前述したとおり、有職の母親以上に専業の母親の方が子育てへの悩み・不安を抱えている場合が多い。母親の負担軽減や子どもの健全な育成のために、父親の積極的なかかわりは不可欠であり、父親に対する意識啓発を充実させる取組が重要である。

○ しかし、父親の意識が高くても、職場や社会が容易にそれを受け入れない現実がある。そのために、社会全体で働き方の見直しを行うことが求められる。子育てばかりでなく、高齢の親への介護などを含めて、家族を大切にし、働き方に裁量を認める社会的な環境づくり、企業に対する意識啓発が必要である。

○ 企業には、仕事と育児との両立支援のために、男女の別なくより多様な働き方を可能にする取組が求められる。具体的には、育児中の様々なニーズに対応できるよう、勤務体系を多様化することや、育児がキャリアにおいて不利とならないよう、より柔軟に人材を活用する仕組みを構築することである。

○ 多様な働き方を可能にするには、例えば配偶者が育児に専念している場合でも育児休業を取得できることが望ましい。特に、配偶者が専業主婦である男性が一時的にでも取得することにより、個人の生活を大切なものとする考え方が普及し、社会全体の働き方が変わると考えられる。

○ また、制度というものは、制度があるというだけでなく、使える制度でなければならない。特に育児支援制度は、企業によっては形骸化している状況もある。使う人のニーズに合った使いやすいものにするには、経営トップの意識を変えるとともによりきめ細かい制度にしていくことが必要である。

○ 最近は、育児休業制度に加え独自の子育て支援策が充実している企業も見受けられる。これらの企業が、必要な経費を企業の社会的責任として負担しているのに対し、そうした取組の遅れている企業が何らの負担をすることもなく、社会的責任を果たしていないのは、不公平と言わざるを得ない。取組の差に応じて税制面の格差を付ける、あるいは取組の進んでいる企業の取組内容を広く紹介することなどにより、企業の子育て支援策を行政も促していくべきである。

○ 仕事と育児の両立支援策は本来雇用主として取り組むべき課題であることを企業は自覚し、育児中の従業員の支援を充実させるべきである。

(女性が働き続けられるための労働環境の整備)

提言8 女性が子育てをしながら長く働き続けられるための労働環境の整備を進めるべき

○  産業構造が変化し、第三次産業が主流となっている現代は、女性が貴重な労働力として責務を担う時代であり、女性自身にも社会の支え手として活躍したいと考える人が増えている。

○  しかし、今も「男性は仕事、女性は家庭」という性別による役割分担意識を抱く人が、特に企業経営者などに多いのが現実である。また、制度においても、税制における配偶者控除等の優遇制度、年金の第3号被保険者制度など、女性が家庭にいることを前提としたものが存在している。

○ 前述したように、女性の社会進出が未婚化・晩婚化を進め、そのことが少子化の原因とする見方は根強く残っている。しかし、現実は、先進諸国においては女性の労働力率の高い国のほうが出生率が高く、我が国においても、最近の調査によると、働き続けている女性のほうが、産む子どもの数が多くなっている傾向にある。

○ したがって、子どもがいても働き続けたいと考える女性が働き続けることができ、さらに2人目3人目と子どもを産むことができるよう、社会の意識や制度を含め環境を整備することが、少子化対策として重要である。

○ そのためには、企業の中で男女が公平に働ける環境を整えるとともに、税制や年金制度も女性の働く意欲を阻害しないものとするなど、各種制度間に一貫性を確立させることが必要である。行政と企業が共通認識をもって連携し、女性が仕事か家庭かという二者択一をしないですむ社会の形成を、進めなくてはならない。

○ また、専業主婦には、かつて社会の中で働いていたが、様々な事情で一旦は家庭に入ることを選んだ人が多く、そのキャリアや能力の活用を望んでいる人が少なくない。そういう人々の中には、ボランティアやパート労働だけではなく、フルタイムで働き、社会の支え手として活躍できる場を、求めている人も多い。そのような女性が社会の中で能力を発揮するための再就職支援システムや、社会活動を行うための場を増やすなど積極的な支援が求められる。

(子育てのためのまちづくりの推進)

提言9 安心して子育てをできることに視点を置いたまちづくりを進めるべき

○ 自然環境の減少、高層ビルの林立、自動車による道路混雑など、大都市の環境は乳幼児を連れた外出や子どもの外遊びに対して心理的・物理的なバリアとなるものが多い。

○ これからのまちづくりは、子育て家庭を含めそこに生活する人々の視点に立ってなされることが重要である。例えば、ベビーカー等の通行に配慮した道路や公共空間のバリアフリー化など、子育て支援に視点を置き、子育て家庭が社会参加を円滑に行えるよう都市環境の整備を進めることが必要である。

○ また、一つの世帯の子どもの数には、住宅事情も大きく関連していると考えられる。都市においては、家賃、居住面積、集合住宅での隣接世帯との関係の問題などがあり、子育てに適した住宅確保の困難性が少子化に拍車をかけていると考えられる。ファミリー向けの住宅の供給拡大など、子育てに適した住宅確保への支援も重要である。

○ 加えて、昨今の社会状況から、人々の治安に対しての危惧が高まっている。特に、子どもたちが犯罪の加害者や被害者になる事件が多発している現状から、子どもを持つ親たちは、常に我が子が犯罪に巻き込まれるのではないかという不安を抱きながら、日々を過ごしている。

○ 安心して子育てができるために、安心と安全を保障する生活環境の整備を早急に進めなければならない。それとともに、子どもたちや親たちに、地域の危険箇所等についての情報を発信し、また防犯力向上に向けた教育に取り組むなど、犯罪被害の防止を図っていくことも必要である。


III 子育て支援策を充実する上で配慮すべき7つの視点

(施策検証とニーズ把握)

視点1 子育て世代のニーズに合った施策を実施するため、これまでの施策の検証ときめ細かなニーズ把握を行うこと

○ これまでも国をはじめ東京都など各行政主体は、様々な子育て支援施策を行ってきた。それにもかかわらず、合計特殊出生率は相変わらず低下を続けているという現状を見ると、どこかに問題があるのではないかと言わざるを得ない。

○ まず、子育て世代の持つニーズは個々の事情によりさまざまであるにもかかわらず、「少子化対策」と一括りにして、施策メニューの数をただ増やしてきた傾向が挙げられる。また、個々のメニューの方向性とレベルが利用者の目指す方向と満足水準に合っていなかったこと、さらに、施策が、利用者サイドではなく供給者サイドにとって取り組みやすいという視点でなされてきたことも考えられる。

○ 今後の施策展開にあたっては、まず現在の施策についての検証が不可欠である。その場合、子育て世代の生活実態やサービス提供者の実態と、行政の対応にミスマッチがないかという視点が重要である。例えば、認証保育所は当初計画を大幅に上回って拡大している。逆に、病後児保育は、ニーズが高いにもかかわらず、事業規模は伸びていない。施策の利用実績など効果を検証し、考察することは、実効性のある施策を構築する上での基礎となるはずである。

○ 子育て支援策は、まず、子育て世代の生活実態の把握から始めるべきである。現在、区市町村を中心として、「次世代育成支援対策推進法」に基づく行動計画の策定に向けたニーズ調査が進められている。ニーズ調査にあたっては、子育て世代の生活実態・意識に十分配慮するとともに、個々の事情に応じたきめ細かなニーズ把握をしなくてはならない。

○ また、多様なサービス提供者が増加し、例えば保育事業への民間企業の参入などが進められる中で、行政からの補助金が画一的であり、サービスの向上や創意工夫に必ずしも結びつかないという指摘がある。行政からの補助金のあり方についても検証し、新たな施策展開にあたっては、効果的・効率的な仕組みに再構築するという視点も重要である。

(財源配分の見直し)

視点2 社会保障財源の配分を見直し、高齢者対策から子育て支援へのシフトを図ること

○ 子育て支援施策の充実が求められ続けているにもかかわらず、子どもへの社会的サービスに関する財政支出は、高齢者対策への配分と比較して極端に少ない。厚生労働省の調査によれば、社会保障給付費に占める高齢者関係給付費の割合が約70%であるのに対し、児童・家庭関係給付費は5%にも満たず、社会資源の配分は高齢者対策に大きく偏っている。

○ また、子育て支援サービスにおける経費配分についても、保育サービスに偏り、在宅で子育てをしている家庭への支援は少ない。例えば、東京都の子ども家庭福祉予算を見た場合、在宅での子育て支援サービスにかかる経費は、保育事業経費の1割程度である。

○ これからの時代を担う子どもたちを健やかに育成するという観点から、子育て支援施策の充実に向けて必要な財源を確保するとともに、より多くの子どもと子育てに携わっている人々が公平に支援を受けられるよう、既存の財源配分を見直すことが必要である。

○ また、奨学金制度の充実などにより子どもの早期自立を助ける社会制度を整備し、子育てへの経済的負担感を軽減していく方策も考えるべきである。

(施策間の連携)

視点3 様々な行政分野の子育て支援施策をより活性化させるために、施策間の連携を進めること

○ 子育て支援については様々な取組がなされているが、施策間の連携は必ずしも十分とは言えない。「縦割り型」の行政組織と施策が、限界を生じさせている実態がある。

○ 例えば、零歳児について、「零歳児保育」か「育児休業」かと議論されるが、保育は「保育に欠ける」対象者、育児休業は適用の条件を満たす人しか利用できず、これらの両方とも利用できない人も多い。また両方を利用できる場合でも、2つの制度の連携は不十分であり、どちらを選択するかについての社会としての考え方も確立されていない状況にある。

○ また、学齢期前の子どもの入る施設である保育所と幼稚園の連携も必要になっている。保育所利用の親は子どもに充実した幼児教育の機会を与えたいと願い、幼稚園利用の親も、保育所なみの預かり時間を希望するようになっている。「保育に欠ける」子どもは保育所に、幼児教育は幼稚園でと単純に振り分けることはできなくなっている。時代に合った利用者のニーズへの対応という観点から、保育所と幼稚園のあり方について抜本的に考え直すべきと考える。

○ 子育て家庭の多様なニーズに応じるためには、子育て支援施策をそれぞれ実施している福祉・保健・医療・労働および教育分野間の施策の連携を、一層進めていく必要がある。

○ さらに、現場での施策間の連携が大きな効果をもたらすことを重要視するべきである。例えば、現在東京都が区市町村への設置を進めている子ども家庭支援センターは、学校、保健所、保育所等と連携した子育て支援の核となることが期待されており、センターによっては、ファミリー・サポート・センター事業や子育てパートナー事業など様々な部門とも連携し、利用者のニーズに応えている。こうした現場レベルの連携を推進していくことが施策の充実にあたっては重要である。

(広報の充実)

視点4 子育て支援を必要とする人に必要な情報が確実に提供できる広報の取組を進めること

○ 連携とともに施策推進にあたり重要なのが、広報である。多くの子育て支援施策がなされているが、その周知が不十分なため、本当に支援を必要とする人のために施策が生かされていない場合がある。

○ また、インターネットなどの新しいメディアの発達により、子育てに関する様々な情報があふれるほど提供されている。そうした中で、利用者がニーズに合わせて主体的に情報を選択できる仕組みが必要となっている。

○ さらに、新しいメディアの急激な発達の一方で、それを享受できない人も多く存在することを、見落としてはならない。むしろそのような人々こそ、真に子育て支援の情報を必要としている場合が多く、こうした人々に必要な情報を確実に届けられるよう、提供の方法を工夫した広報の取組や、住民が利用しやすい一元的な窓口を設置することを、早急に進めなくてはならない。

(社会全体を巻き込む取組)

視点5 子育てへの連帯意識を高め、社会全体を巻き込んだ子育て支援の取組を展開させること

○ 親子は互いにかけがえのない存在であり、子育ての第一義的責任は親にあることは言うまでもない。しかし、子どもを育てていくには、親子に対する周りからの支えが不可欠である。これまで伝統的に子育てを支えてきた地域や親族の支援をあまり期待することができない現代においては、新たな社会的支援が必要となっている。

○ 子育て支援に関して幅広く多様な取組を展開させるには、行政がNPOや企業、地域のシニア世代や子育て中の親など多くの人々の参画を推進することが必要である。行政と都民が一緒に取り組むことにより、柔軟で多様な支援が可能となる。

○ 社会全体を巻き込んで、多くの世代の合意のもと子育てへの連帯意識を高めていくことは、子育てを超えて新しい社会連帯をつくる。そこでは、知恵の宝庫である子育て経験者やシニア世代など、様々な立場の人のパワーを活用することも可能となる。また、そういう場が支援する人にとってやりがいを実感できる活躍の場となることも期待したい。

○ 一人の子どもに多くの大人がかかわることは、子どもの成長の上でも大切なことである。また、親とは違う大人が見守る中で子どもが育つことは、親自身も子育てに対する安心を得られることになる。

○ 地域社会には、行政やNPOなどにより、様々な親子の居場所や集いの場がつくられつつある。そのような拠点があることだけでよしとはせずに、拠点同士をつなぎ、さらにそこに住む人々もつながることにより、子育てに暖かい「まち」を住民協働でつくりあげていくようなネットワークの活性化を図りたい。

(NPOなどの取組との連携)

視点6 NPOなどの民間組織と行政の協働を進め、多様な活動の展開を目指すこと

○ 子育て支援に、最近大きな力を発揮しているのが、NPOなどの民間組織の取組である。都内の各地で様々な団体が活動しているが、子育て中の人が中心となって活躍したり、子育て経験者がアドバイザーとなるなど、子育て家庭の強い味方となっている。

○ このような民間組織は、拠点となる場所の確保やより専門的なアドバイザーの確保など、行政の支援を必要としている場合が多い。行政が、例えば小中学校の余裕教室などを活用して、場の提供を行うなどの支援を行えば、さらにNPOの活動は広がる。今後は民間組織の活動が一層必要になると予想され、行政と民間が協働し、互いを高めあう関係を築くことが重要である。

(親が地域の中で活躍する取組)

視点7 子育て中の父親・母親が地域における子育て支援の場に積極的に参加できる取組を展開すること

○ これまでの子育て支援の場では親は支援される側に固定されがちであった。しかし、一方的な支援は、依存心を高める一過性のサービスに終わりがちである。互いに支えあうという地域コミュニティの中で、若い親も互いに支援し合うような取組を展開させ、親としての自立を図ってほしい。

○ 特に子育て中の専業主婦には、社会の中で力を発揮したいと望んでいる人が多い。子育て支援の場は、そうした人々も参画でき、生き生きと能力を発揮させることができる場としても、機能するべきである。

○ また、子どもの育ちには父親のかかわりが必要であることは言うまでもなく、その父親の力を地域社会の中でも生かすことが大切である。例えば、従来は主に母親だけで成り立っていた地域の活動や学校の場に父親たちの参画を積極的に進めることが求められる。こうした取組が、子どもたちへのより豊かなかかわりを生み、また、地域活動を活性化させるという効果が期待される。

結び

1 自信と希望に満ちた次世代の親を育てる社会の形成

○ 我が国の青少年は、近年、総じて将来に対して悲観的な傾向にあると指摘される。ある調査によれば、日本の高校生は、「社会よりも自分が、未来よりも今が大事」と考える傾向にあると報告されている。

○ 結婚や出産については個人の考え方を第一に尊重するべきであることは言うまでもない。それを前提とした上で、我々は、すべての世代が自分自身が生きていくこと、さらに自分の次の世代を育てることへの自信と希望が持てる社会にしていきたいと考える。

○ 若い世代の将来不安や一部に見られる自己中心的考え方は、規範意識の低下した現在の大人社会の反映とも考えられる。子どもたちを責める前に、まず大人が真摯に生きる姿を示し、真剣に彼らにかかわり、大人と子どもたちとの暖かい関係を築く努力を実践するべきである。

○ 次代の親が育っていくためには、社会全体が、子育ての喜びや価値を実感できる社会を実現し、若い世代に自信と希望を与えることが重要である。

2 「子育てに希望と連帯感が持てるまち・東京」の実現

○ これまで述べてきたように、大都市東京は、家庭、地域、職場等いずれの場面においても子育てに厳しい状況が存在する。しかしその一方で、活力ある人々が集まり、そうした中から新しい事業にチャレンジするNPOや企業など多様な事業主体が生まれており、その力を子育て支援に生かしていけるという可能性を持っている。

○ このような特性を持つ東京こそ、行政と企業、民間組織、地域社会が協働し、多くの人々が参画した子育て支援策の展開により、「子育てに希望と連帯感が持てるまち・東京」として、実効性のある強力な取組を全国に発信していくべきである。

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