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第3期東京都児童環境づくり推進協議会「最終報告」

「子どもが輝くまち東京−子どもは未来の担い手、
子育てを家庭と社会で−」

  1. 基本的考え方

     1 保育改革への潮流と今後の保育サービス

     2 子どもの育ちを保障する保育

  2. 現状と課題

     1 保育サービスの実態

     2 高まる保育ニーズに応えるために

  3. 今後の方策

     1 子どもの養育・育成環境をめぐる意識を転換する

     2 多様な保育サービスメニューを整備する

     3 良質なサービスの提供と保育サービスにかかわる人材を育てる

     4 子どもと親のウエルビーイングを支える

  4. これからの子育て支援の基本的な視点

 1 子育ては社会的な営み−子育て観の転換を

 2 子どもの状況を配慮−発達に即した支援プログラムを

 3 ニーズの多様化を踏まえて−現行の制度に限界が

 4 都が担うもの−支援システムの多様化

 5 重点的な提案−これだけは、実現したい

コラム(「子育てと仕事の両立」についての委員からのエッセイ)

 

第1章 基本的考え方

1 保育改革への潮流と今後の保育サービス

(1) 保育改革への潮流

 本協議会は、今期における児童環境づくりの重要課題として、子育てと仕事の両立のための意識改革と施策やサービスの充実、並びにそのための課題と今後の方向性について、積極的に討議を重ねてきました。これを推進する上で欠かすことのできない重要な二つの柱が、職場・雇用環境の整備と保育サービスの充実です。先の中間報告では、この第一の柱である職場・雇用環境の整備について検討を加え、今そしてこれから特に重要とされる提言を行いました。この課題に関しても、保育サービス抜きに論ずることはできません。既に公にされた「中間報告」の提言には、職場・雇用環境の整備という視点から東京におけるこれからの保育サービスのあり方について、employer sponsored(企業委託型)保育の推進などが含まれています。そして本報告では、第二の柱である保育サービスの充実について本格的に幅広く検討を加え、保育サービスを中心とした両立支援のための方策について提言することとしました。

 今そしてこれからの保育サービスを展開していくためには、従来の保育制度や施策・サービスを継続的に充実させ、強化していくことでは満たし得ない大きな社会の変化、家族の変化に伴う保育ニーズを背景に、時代を画する変革が求められています。それはまず、これまで保育制度や施策・サービスの中核にあった保育所の改革に現れ始めています。保育所は、これまで長年にわたり、いわゆる「保育に欠ける」乳幼児のために家庭の養育を補完することがその責務とされてきました。その間、「保育に欠ける」状態にありながら、0歳児、1歳児を中心になかなか保育所に入所できないという待機の問題、そして入所していても、保護者の就労状況に関係なく、夕方以降の保育に限りがみられることから生じる延長保育の問題など、保育所が利用しにくいという問題や課題が多くみられるようになりました。少子化が進み、子どもを健やかに生み育てやすい環境づくりへの関心が高まるほど、また保護者にとって子育てと仕事の両立の課題の解決が現実の深刻なニーズを背景にして求められるほど、利用しやすい保育所への変化を求める声は切実になってきました。

 1997(平成9)年に半世紀ぶりに大きく改正され、昨年1998(平成10)年の4月から施行された児童福祉法に基づく保育所制度の改革は、その一つの典型でした。保護者や子どもにとって必要な地域の保育情報が提供されること、入所する保育所は利用者が決めることなどの原則が定められたことは、行政主体の保育サービスから、利用者主体の保育サービスへの潮流に沿った、わが国の大きな福祉改革の一環として理解できるものです。また、同時に進められることとなったいわゆる「乳児保育の一般化」は、これまで特定の保育所でしか行っていなかった0歳からの保育を、すべての保育所が行わなければならなくなった点で、待機問題などを通じ利用しにくかった保育所のイメージを変えていく大きな施策の転換となるものでした。

 また、児童福祉法の改正は、保育所が単に「保育に欠ける」子どもたちを保育するという役割のみではなく、地域における子育て支援を積極的に行う役割を明らかにした点でも画期的なことでした。今日の社会・地域・家庭の姿をみると、特に乳幼児の子育てにかかわる不安や孤立感は、特定の家庭ではなくどの子育て家庭にもみられる状況にあることが理解できます。今日の保育所は、地域住民、地域の保護者の方々からの保育に関する相談を受け、必要な助言をする役割も担うことが不可欠になってきています。このような子育て支援の役割は、どの保育所でも、乳児期からの保育を受け、適切な延長保育や病後児の保育を行っているという環境づくりを促し、さらには地域における子育ての知識、経験、技術を蓄積している場として、広く地域の子育てを支援する環境づくりも一層求められることとなります。

 このような潮流がさらに進むと、「保育に欠ける」状況にある子どもへの保育サービスに限らず、すべての子どもが「保育を必要とする」という受け止め方が重視されるようになります。「保育ニーズ」イコール「保育に欠ける」という受け止め方では対応が難しくなってきます。

(2) 「保育ニーズ」のとらえ方

 このようにみてきますと、いわゆる「保育ニーズ」という言葉の意味を改めて確認する必要があります。以下の提言ではその主旨に基づいてこの言葉を用いていきたいと思います。

 「保育ニーズ」というとき、まず第一に、先にふれました「保育に欠ける」と考えられる子どもが保育所に通わなければならない状況があります。児童福祉法では、保育所を利用できるのは「保育に欠ける」要件に合った子どもです。その実際の運用は、区市町村ごとに定められています。多くの自治体は、国が示した基準をもとに、さらに要件を指数化する等の作業を行い、細分化して運用しています。各要件の指数は、例えば日中両親が常勤の労働に従事していること等の項目ごとに記されており、家庭ごとに「保育に欠ける」程度を指数によって段階を付け、それによって入所の可否の決定を行う仕組みになっています。このような得点方式は、利用者の側に沿った申請・要望に基づいて設定されているわけではありません。この方式は、福祉の公平性を重視した行政を円滑に進める上で効果を発揮するといえます。したがって、まず、「保育ニーズ」があり、かつそれが充たされているのは、行政が「保育に欠ける」と判断し、保育所に入所が「可」となった子どもとその保護者です。これを第一ニーズ群と称することとします。

 第二に、明らかに行政的に保育所入所が「可」とされた場合でも、「保育ニーズ」が充たされない場合があります。確かに今回の児童福祉法改正によって、保育は従来の措置としてではなく、利用サービスとして解釈されるようになり、制度上も保護者の選択によって希望する保育所を申請することができるようになりました。  しかし、基本はあくまで区市町村に申請し、行政側が決定することになりますので、例えば定員に満たない保育所では、 100%の保護者の意向に添う形で保育所を利用することができますが、定員を超える場合には、このような得点方式や抽選などの選別方法で入所が決定されます。この振分けによって、現に「保育に欠ける」状況にあっても、「保育ニーズ」を充たすことはできないことになります。まさに典型的な「待機」状況にあり、いわゆる行政上も待機児童としてカウントすることとなります。

 これまでは、定員に空きのある保育所があれば、二次希望、三次希望の順に入所できるところを選択し、「保育ニーズ」を解消する保護者が多かったのですが、近年は希望する保育所に入所できるまで「待機」する保護者も増えてきました。この場合、後述する保育所以外の他の保育サービスが利用されますが、しかし「待機」状態にあることに変わりはありません。特に東京都全体の保育ニーズの最大の問題は、0歳からの保育、乳児保育ニーズであり、この面での「待機」問題への対応やその解決は緊急の課題です。

 このように、保育ニーズがあって、かつ行政が「保育に欠ける」と判断し、保育所に入所が「可」となった子どもとその保護者でも、「保育ニーズ」が充たされていないことがあります。これを第二ニーズ群と称することとします。

 第三に、保護者が「保育に欠ける」と判断して申請しても、福祉サービスの対象とされるかどうかという行政判断で入所が「否」とされた場合は、言うまでもなく「保育ニーズ」は充たされていません。例えば、母親が週1〜2日午前中だけのパート勤務をしている家庭など、非定型的、変則的な就労をしている家庭は、通常「保育に欠ける」と判断されず、保育所に入所はできません。したがって、行政上も「待機」児童として考慮されないのです。しかし、保護者の状況によっては「待機」という思いが残る場合も多いでしょう。特に、上記のような例や、就労する時期と子どもが保育所に入所する時期とが微妙に交錯する場合などは、「保育に欠ける」と判断されなくとも、「保育ニーズ」は強く、「待機」状況にあるとさえ言えます。

 このような場合、後述する他の保育サービスを利用することによって、当面の「待機」状況を回避する保護者も多いのですが、「保育に欠ける」要件を広げるか広げないかによって、今後の「保育ニーズ」への対応は相当に違った展開をみせるでしょう。

 このように、「保育ニーズ」があっても、「保育に欠ける」という行政判断がなされず、保育所に入所が「否」となった子どもとその保護者が存在します。これを第三ニーズ群と称することとします。

 第四に、個別の事情によって、部分的に、非恒常的に「保育ニーズ」が生じ、その時「保育に欠ける」状況にある場合、通常は保育所への入所申請までには至らず、その時々に何らかの方法で、「保育ニーズ」を充たすことが必要になります。身内や、比較的実家が近い場合には祖母など、あるいは近隣の知人、そして後述する他の保育サービスを利用することによって、当面の「保育ニーズ」を充たすこととなります。

 さらに、保育所に入所していても、子どもの病気中や病後は通常の保育所保育が不可能です。しかし現に「保育に欠ける」状況を何とか解決しなければなりません。また、送迎や二重の保育を必要とする場合など、保育所のみで「保育に欠ける」状況を解決することが難しい状況は数多くあります。この場合も「保育ニーズ」が強く存在すると言えます。

 このように、短期間あるいは短時間「保育に欠ける」状況が生じたことにより、「保育ニーズ」を充たす必要が生じる子どもとその保護者が存在します。これを第四ニーズ群と称することとします。

 第五に、以上のような何らかの「保育に欠ける」状況が現に見られなくとも、これまでの本協議会の報告においても指摘してきましたように、子育てがもたらす責任感、負担感、孤独感、閉塞感、あるいはまたデメリット感などが、子どもとのかかわりにもたらすマイナスの影響を考慮する必要があります。むしろ専業主婦の方に多くみられる子育ての不安感、孤立感などに目を向けるとき、親自身のリフレッシュや、何らかの就労、学習、社会的活動などの社会参加の機会の重要性が改めて指摘されます。

 このことを子どもの側から見るとき、幼児期からの豊かな心身の発達や人間性、社会性の形成の上で、様々な大人たち、子どもたち、そして広がりのある自然環境、社会環境に接触することは、安定した親子関係とともに欠かすことのできない要件とさえ言えます。今日の家庭養育環境は、このような機会をよほど配慮しなければ、むしろ親と子、とりわけ母と子という限られた人間関係の影響を、それもマイナスの影響を子どもが受けてしまう傾向をもたらしかねません。むしろ、親も子も、地域における社会化を通じて、豊かな関係を育み、親として、子として育っていくことが必要です。

 このような視点からみると、子どもは「保育に欠ける」状況にあるか否かを問わず、保育を必要とする存在なのです。それは、いわば潜在的な「保育ニーズ」と言えます。顕在化した「保育ニーズ」だけではなく、潜在的な「保育ニーズ」にも目を注ぐとき、これからの保育所や後述する様々な保育サービスは、それに積極的に応じる体制を整えることがますます求められてくるでしょう。

 このように、「保育に欠ける」か否かにかかわらず、親の子育てを支援し、またともに子育てにかかわることの必要性、そして子どもの発達のために保育の機会を考慮することの必要性から、積極的に潜在的「保育ニーズ」に対応する場合、それはすべての子どもとその保護者が対象であると考えることができます。これを第五ニーズ群と称することとします。

(3) 子育ての社会化

 以上の五つのニーズ群への対応を考えるとき、まず保育所の今後の役割として、そしてその基盤となる行政の役割として、第二ニーズ群及び第三ニーズ群への積極的な対応が何よりもまず求められることになります。特に第三ニーズ群をも含めた「待機」を重視した施策の展開は、今後特に重視する必要があると考えます。また、第二ニーズ群、第三ニーズ群及び第四ニーズ群に対応する保育サービスは、従来から保育所以外のサービスによって進められてきたと言えます。

 さてわが国では、保育制度というと、つまり保育所制度のことと受け止められるほどに、保育サービスに占める保育所のウエイトは高いものがあります。しかし、東京において進められている保育サービスをみますと、児童福祉法に基づく保育所のほかに実に多くの集団保育の形態(以下センター型保育と記します。)があります。また、近所の保育ママと呼ばれるような保育者が住む家庭で保育が行われる形態(以下家庭型保育と記します。)が普及しています。あるいは、ベビーシッターと呼ばれるような保育者が子どもと保護者の住む家庭を訪問して保育が行われる形態(以下在宅保育と記します。)も多く利用されています。

 これらの様々な保育サービスは、保育所に入所できないときに利用されることも多く、先にふれたように第二ニーズ群、第三ニーズ群及び第四ニーズ群への保育サービスの対応に最も特色がみられました。特にこれまで保育所における対応がきわめて不十分であった零歳児保育など、低年齢児保育に関しては、家庭型保育を主に、その保育ニーズへの対応に多くの役割を果たしてきました。また、短期間、短時間の保育が必要な第四ニーズ群には、徐々に在宅保育サービスが普及し、今日では、そのサービスに対して国の助成が行われるまでになっています。

 これら保育サービスの特徴は、家庭や子どもの状況に応じて、また様々なニーズに応じて、柔軟にきめ細かく対応できることです。ちょうど今、わが国で非常に高い関心がもたれ、その対応が進んでいる高齢者の保健・福祉にみられるように、在宅で、通所で、あるいは必要なときに必要なところでサービスが行われることが、これからの保育サービスにも一層求められています。これまでの公的保育施策やサービス(公助)に限らず、特に非営利民間団体や地域における自主的、主体的な保育活動(共助)にも積極的な関心と助成が必要となるでしょう。保育所とともにこのような多様な保育形態やサービスが積極的な役割をもって参画する保育ネットワークは、今後特に欠かすことができません。国の段階では、既に学校法人、非営利民間団体、営利民間団体等による保育所への参入という画期的な変化がもたらされつつありますが、保育所以外の様々な保育サービスに対しては、むしろ東京都や区市町村がその独自性や特色を生かした適切な関与や助成を行うことが重要になると考えられます。

 しかし、これらの多様な保育サービスを充実させる上で欠かすことができない要件が保育の質の確保です。そのための養成、研修、ガイドラインの制定等が求められます。

 さらに注目すべき動向は、保育所と幼稚園の機能や役割が接近していることです。むしろ幼稚園の方に、教育の機能だけではなく保育所と同じような内容の保育や子育て支援の役割が広がっていると言えるでしょう。東京都でみますと、平成10年度では4、5歳児で保育所及び幼稚園に通園している子どもの割合は99%と、極めて高い割合に達しています。幼保の垣根は実質的に非常に低くなっている状況は、今後の保育サービスや保育ビジョンを考えていく上で見過ごすことはできません。

 以上ふれてきました様々な流れは、家庭における子育てとともに必要な地域社会における子育て、つまり社会保育の多様な機会を広げていくことにより、家庭や保護者の子育てと仕事の両立を実質的に支援することに大きく貢献することは言うまでもないことです。それとともに、このような流れは家庭での子育てや社会保育の質を向上させる上でも重要な意義をもつと考えられます。両立上の問題をかかえていたり、専業主婦故に母親のみに負担がかかりすぎ、その影響力が大きすぎる子育て環境を見直し、すべての子どもにとって質的に優れた社会的保育環境が豊かに提供されることが必要です。

 すべての子どもは、そのよりよい発達と自立のために、このような保育を必要としています。子どもにとっては、家庭での養育と社会での保育とが、それぞれ一人ひとりの条件に沿ってバランスよく営んでくれることを求めていると言えます。東京都の保育が、今後第五ニーズ群をも視野に入れた懐深いものとなることが期待されます。すべての大人たちが、社会的親として、このような保育にかかわり、あるいは家庭での養育と社会的保育に理解を示すことが、「子どもが輝くまち東京」を目指すために、本当に大切なことであると思うのです。

 2 子どもの育ちを保障する保育

(1)慈しみ育てる責任

 生まれたばかりの人間の赤ちゃんは、誰かが世話をしてくれなければ生存すら危うい存在です。授乳、排泄の世話を始めとして、母親は赤ちゃんの命を守り育てるために心を砕きます。育児は喜びであると同時に不安の連続でもあります。お乳の飲み方が少ない、寝つきが悪い、熱を出した、発育が遅いなどの様々な問題が、母親を不安にします。赤ちゃんのほうも、居心地の良い胎内環境から、刺激に満ちた外界へという生活環境の激変を経験し、空腹、のどの渇き、おむつの濡れなどが不快と不安を引き起こしていると思われます。このような状況の中で、母と子はゆっくり時間をかけて、相手を知り、お互いになじんでいきます。両親を始め、乳児をとりまく周りの大人たちは、乳児が泣いたり、声を出したり、微笑みかけたりしている様子を見て、声をかけたり、抱き上げてあやしたりして慈しみ育てます。人間の子どもが一人前になるには、ほぼ20年という長い年月が必要ですが、子どもが育つためには両親だけではなく、祖父母や地域社会の人びとなど多くの人の目と手が必要です。子どもは両親の子どもであると同時に、社会の子どもでもあります。私たち大人は、次代を担う子どもたちが健やかに育つための環境条件を整える責任を負っています。

(2)母親の就労が子どもに与える影響について

  女性の生き方が多様化し、「仕事も育児も」と考えて、乳幼児をもちながら仕事を継続する女性が増えてきました。子どもをもつ女性が働くとき、問題になるのは「子どもを誰に(どこに)預けるか」ということです。

今、幼い子どもをもつ母親が、子どもを保育所や家族以外の人に預けて働くことは、ごく当たり前のことになっています。けれども、働く女性が増えはじめた1960年代においては、母親の就労は否定的に見られていました。その理論的根拠になったのは、イギリスの小児精神医学者であるボウルビィの愛着理論です。彼は乳幼児期に母性的養育が与えられない状態が続くと、後の人格形成に悪影響が起きる可能性があることを、戦後まもなくの時期において、条件の悪い施設で養育されている子どもたちについて観察し報告しました(1951)。ボウルビィは特定の人(多くは母親)への愛着が形成される乳幼児期に、たびたび母子分離を繰り返し、子どもの立場から見れば複数の人物からマザリング(母親的な世話)をうけることになる母親の就労に始めは否定的でした。彼の研究に対しては初期から疑問が提出されましたが、彼自身も後に次のように見解を修正しました。すなわち、仕事をもつ母親の子どものように、朝、保育園で母親と別れても、夕方迎えに来てもらうというような規則的な分離は、それほど心配するには当たらないこと、また、複数の母親的人物による養育については、養育の仕方が母親のやり方とほぼ同じで、継続性があれば問題がないことなどです。しかし彼の愛着理論は誤解されて世間に広まり、「3歳まで母親が育てるべきだ」という、いわゆる3歳児神話につながっていきました。

 働く母親たちは、「仕事をしたい」という強い願望や、「仕事をしなければ生活できない」という状況の中で、「母親が働くことが子どもにどんな悪い影響を及ぼすのだろうか」という不安に駆られていました。1960年代から1970年代にかけては、「母親の就労が子どもに及ぼす影響」というテーマで、乳児期から青年期までの各発達段階ごとに、子どもの知的発達、情緒的発達、社会的発達などへの影響が検討され、数多くの研究が行われました。乳児の愛着については、はじめは一人の人、特に母親に愛着が形成され、次第に他の人へも愛着が拡がっていくと考えられていました。けれども、乳幼児は早い時期から複数の人に対して同時に愛着を形成していることが明らかになっています。乳児は大人との相互作用を積極的に求めようとする傾向性をもっており、相手との関係に応じて愛着の度合いは様々ですが、多くの人に愛着をもつことによって、豊かな人間関係を作っていくと考えられます。

 母親の就労が子どもに及ぼす影響については、母親の就労の有無よりも、母親が現在の自分の状態に満足しているかどうかの条件が重要であることや父親の育児参加度など家族、親子関係の状況が関連があることが明らかになっています。

 母親の就労が当たり前になっている今日では、0歳児からの社会的保育が行われています。人生早期からの社会的保育が是か非かではなく、子どもの育ちにとって望ましい社会的保育の質を問題にする必要があります。1980年代以降の研究は、社会的保育の実態の詳細な分析を通して、子どもの発達を保障するための「保育の質」を問う研究が行われるようになりました。

  (3) 子どもにとって良い保育とは

 第1章1でみたように、様々な「保育ニーズ」があり、それらの「保育ニーズ」をもつ子どもの数は、ますます増えていくと思われます。「保育に欠ける」状況にあるか否かを問わず、すべての子どもが良質の保育を必要としています。しかし、子どもの「良い保育を受ける権利」と親の労働条件からくる実際の保育の状況は、しばしば対立するものとなります。母親の残業に次ぐ残業で、保育時間を延長しても追いつかず、長時間の保育となる事態や、親の勤務の形態から夜間保育に頼らざるを得ない事態で、どのような保育が子どもの健康な育ちを保障するのかを考えなければなりません。乳幼児の生活リズムは、一般に朝7時か8時頃起きて、夜8時か9時頃寝るというものが多く、あまりにも長い保育時間や生活リズムのずれる夜間保育は、子どもの負担になりますので、できれば親の働き方を変える方が望ましいのですが、親の方に職業生活をしていく上で、あるいは経済的理由で、長時間保育や夜間保育にならざるを得ない、のっぴきならない事情がある場合が多いのです。しかし、何よりも子どもの健やかな育ちを保障し、親が子育てをしながら、安心して働き続けることを保障する保育のあり方が求められなければなりません。やむを得ず、長時間保育や夜間保育になる場合は、子どもの状態と家庭の事情を理解し、子どもの不安を受け止め、子どもを安心させることのできる力量のある保育者が必要です。栄養価を考えた夕食を用意し、子どもが静かに寝ることができる部屋も必要です。これらの条件を満たすのは、低年齢児の場合は、大規模のセンター型保育よりも、後に述べる家庭型保育がふさわしいと思われます。

 しかし、子どもにとって最も望ましいのは、母親(父親)が、育児休業をとって、ゆったりと自分に接してくれることでしょう。育児休業も現行制度では1年間ですが、これを3年間とし、この期間内で母親(父親)が希望するときに、希望する期間だけとれるという状態が、子どもの発達にとっても、親の精神衛生にとっても望ましいと思われます。この場合、育児休業中であっても、保育所の一時保育などの様々な子育て支援サービスを利用できることが必要条件です。

   1) 保育者の質の確保―子どもの心理的よりどころとしての保育者 

 家庭と母親から離れて不安な思いをしている子どもにとって、何よりも必要なことは、保育者と保育者のいる空間が安全の基地、心理的なよりどころとなることでしょう。保育者が子どもの心理的よりどころであるためには、高い専門性をもった保育のプロであることが必要です。保育の質は保育者で決まるといってもいいぐらいです。良い保育者は子どもは小さくても自分の意志をもち、要求を態度や行動に表していることを知っており、子どもを一人の人格をもった存在として尊重しています。また、子どもの行動をよく見ていて、子どもの心の動き、要求に敏感で、臨機応変の対応ができます。子どもの全般的な発達段階の特徴と、一人ひとりの子どもの発達状況や個性、家庭での子どもの様子も良く理解しており、育児について悩みをもつ母親の相談にのることもできます。良い保育者は子どもからも親からも信頼されています。

   2)  子どもの年齢に応じた保育環境を

      ―0歳児から2歳児までの低年齢児について

 0歳前半の乳児は自力で移動することはできませんが、泣いたり、微笑んだり、手足をバタバタ動かしたり、見たり聞いたり触ったりするなどの感覚器官を通して、外界とのコミュニケーションを図っています。生後3か月の乳児は大人が微笑みかけたり、あやしたりすると、大喜びで手足を動かしたり、声を出したりしてはしゃぎます。しかし、乳児を預かるだけで、十分に相手をしないでいると、あやしかけに対しても反応しない子どもになる可能性があるのです。

 保育者は子どもにとっての心理的よりどころですが、そのあり方は、子どもの年齢によって異なります。生後6か月の子どもは、自分から相手に微笑みかけたり、呼びかけるような発声をしたり泣くことで、保育者の関心を引きつけることができます。この時期はひと見知りも始まります。子どもにとっては、保育所(家庭型保育や保育室も含む)に行くといつも決まった人が、優しく相手をしてくれて、食事や排泄、眠いときの世話をしてくれることで情緒的に安定できます。子どもの不安を少なくするために、保育者の頻繁な交代は避けなければなりません。担当の保育者を決めることで、子どもと保育者の双方に、相手に対する愛着と信頼関係が生じむます。保育所では3歳未満児の保育は、複数担任制が普通ですが、主担当保育者の休みのときは、子どもがなじんでいる副担当保育者が世話をすることで、子どもの不安を少なくすることができます。

 0歳児の場合は、一人ひとりの生理的リズムが違い、睡眠を小刻みにとるので、寝る部屋と起きて活動する部屋とは分けておく必要があります。

 0歳後半から1歳前半の時期は、特定の親しい人への愛着が強くなる時期です。1歳前半は特に特定の人からの分離不安が強くなりますので、産休明けから保育されている子どもでも、朝、母親と別れるときに大泣きすることがありますが、分離不安はふつうは4週間ぐらいで弱まってきます。

 新入園児の場合、慣れない環境で始めから長時間の保育を受けることは、ストレスも疲労も大きいと思われます。初めて親から離れる子どもの心細さと不安を受け止めてあげるためには、保育者が子どもと1対1の対応をすることが大切です。

 1歳後半から2歳前半になると、子どもの自己主張が始まります。何でも「自分でする」とがんばり、「イヤイヤ」を連発します。この時期は「あれもやりたい、これもやりたい」時期であり、物をほかの物に「見立て」たり、何かになった「つもり」の遊びが始まります。遊びは保育者が子どもに共感することによって発展していきます。

   3) 低年齢児にふさわしい家庭型保育

 いわゆる保育ママや家庭福祉員(東京都で保育ママに当たる人を呼ぶ正式名称)のように小規模で家庭的な保育サービスがあります。このような形態での保育を当協議会は保育所のようなセンター型保育に対して、家庭型保育と呼んでいます。これまでにみてきたように、0歳から2歳ごろまでの低年齢児は、大きな集団でよりも、家庭的な雰囲気の小さな集団で生活する方が心理的にも安定すると考えられます。多くの子どもたちの出入りがあって落ち着かない大きな保育所と比べると、決まった顔ぶれの数人の子どもと保育者の小さな集団ですし、保育者は同じ人物なので子どもは落ち着いて生活することができるでしょう。ここでの保育は子どもを保育者の自宅で預かっているので、保育時間の融通がある程度はきく、産休明けからでも、少々の病気でも預かってくれるなどの柔軟性があります。乳幼児の発達のみちすじを理解し、子どもが好きで保育に理解があり、働く親たちを支援することに使命感をもっている保育者の場合は、保育者と親の結びつき、親同士の結びつきが親密で、子どもを預けたり、預かったりという関係を越えたつきあいに発展するようです。このような家庭型保育は、子どもにとっても親にとっても心理的なよりどころを提供してくれるでしょう。家庭型保育を認可保育所に入れなかったための補完あるいは認可保育所に入るまでのつなぎとして考えている人もいますが、家庭型保育の良さを評価して、低年齢児のうちは積極的にこのタイプの保育サービスを選ぶ人もいます。しかし、何よりも保育者の質が問題となるので、保育者の質の水準を確保するための工夫が必要でしょう。 

   4) 3歳から小学校入学までの子どもの保育―人とかかわる力を育てる

 3歳になると基礎的な運動能力の発達をもとに、三輪車のペダルをこぐことさえできるようになります。そして小学校入学までの間に運動能力だけでなく、食事や排泄の習慣など、基本的生活習慣も一応の自立をみることができ、自分の意志をことばで伝えることができるようになります。それまでは保育者を頼りに動いていたのが、自我が芽生えるとともに、自分で行動しようとします。この年齢段階でも、新しく集団生活を始める場合は、緊張と不安のために心身の疲労が重なることを考えて、保育者が1対1の対応をする必要があります。

 乳幼児期は人とかかわる力の基礎を育てる大切な時期です。子どもは養育者から愛されることによって、自分に自信をもち、人を愛する力を身につけていきます。繰り返し述べているように、乳児は人とのかかわりを積極的に求める「ひと志向」の傾向をもっています。仲間とのかかわりもかなり早くから見られますが、1、2歳児では始めは物の取り合いから関係が始まります。3歳児になると特定の仲良しの友達ができ始めますが、自己主張が強く、トラブルが多く見られます。4、5歳児になると、仲間と遊ぶことの楽しさがわかり、集団の中できまりを守り、年下の子どもへの思いやりを示すようになります。このような乳幼児の人とかかわる力は自然に発達するのではなく、保育者の適切な援助によって発達していくのです。 

 保育所に通うことで、子どもたちは一日の生活リズムができてきます。起床、朝食、通園、園での保育プログラムに沿った活動、昼食、昼寝、午後の活動、お迎え、夕食、家庭での親やきょうだいとの団らん、入浴、就寝と規則正しい生活リズムが子どもの心身の健康につながります。保育者が教えるだけでなく、仲間がモデルになることで、基本的な生活習慣だけでなく、仲間とのつきあい方も学びます。少子化が進む中で、きょうだい数も少なく、近所に遊び友だちもいないという状況の子どもが多いのですが、保育所での生活は、同年齢集団だけでなく、異年齢の子どもたちとの交流も経験できます。大家族で育つきょうだいのように、年長の子は小さい子をかわいがったり、泣いている仲間を慰めたり、年齢に応じた「お手伝い」をしたりすることができます。年齢にふさわしい保育プログラムによって、子どもたちは「お店やさんごっこ」を楽しんだり、近所への散歩で自分の住む地域について学んだりして経験を広げます。子どもたちは教えられたことを、受け身で学ぶのではなく、主体的でかつ探索的です。子ども自身がいろいろな友達とかかわり、人間関係を広げていきます。社会性の発達という点では、家庭児よりも確かに保育園児のほうが早く発達すると考えられます。

   5) 保育の場の物理的環境

 子どもたちが快適に楽しく過ごせる保育の場の物理的環境についても心を配る必要があります。子どもの年齢と人数に見合った保育室の広さが確保されているかを始めとして、明るさ、日当たり、清潔整頓、騒音がないこと、年齢相応の遊具や玩具等の備品があるか、室外で運動できる所や近くに散歩コースがあるか等が問題になります。0歳児が寝ているベッドがいくつかあり、すぐそばで年長の子どもたちが走り回っているというような保育環境は決して好ましい環境ではありません。

   6) 保育の場の心理的環境

 保育の場の心理的環境を構成する最大の要因はいうまでもなく保育者です。前にも述べたように、すぐれた保育者は子どもの心の動きや要求に敏感です。このような保育者と一緒にいることで、子どもは自分が「受け入れられている」と感じ、のびのびと自由に自分を出すことができます。仲間がいて、子どもの好奇心や興味を引き起こすような素材や遊具があり、家庭では経験できないような楽しい活動ができる保育の場は、仕事をもつ母親の子どもだけでなく、家庭で孤立した子育てをしている母親の子どもにとっても必要だと思われます。 

   7) 家庭と保育者の緊密な連携

 子どもは両親の子どもであり、子育ての責任者は両親ですが、子どもは同時に社会の子どもでもあります。保育者は両親と一緒に子どもが健やかに育つことを願って子育てに協力します。親と保育者のチームワークの良さが、子どもの発達を助け、親を心理的に安定させます。子どもにとって良い保育とは何かを考える時、保育者が子どもの生活時間や生活の実態、親の労働の状況を知ることも大切になります。特に、0歳児では、睡眠、授乳、排泄、起きているときの活動について家庭との緊密な連携が必要です。睡眠時間は十分か、食事の内容と量はどうか、目覚めているときの活動はどうかを家庭と保育者は相互に連絡しあう必要があります。親は朝、子どもを送ってきた時に、家庭での子どもの状態について報告し、夕方には保育者が日中の子どもの様子や気づいたことについて詳しく連絡しあっているのが普通です。

   8) 学童クラブ

 学童クラブは働く親の子どもたちに、生き生きとした放課後の生活を保障する場です。放課後の子どもの居場所であり、どんな子どもでも受けとめてもらえるところです。学齢前の子どもの保育者がそうであるように、学童クラブの指導員は、一人ひとりの子どもを丁寧にみており、家庭の事情を知り、子どもの気持ちに添った対応をすることができます。子どもと指導員の信頼関係の上に、子ども同士の信頼関係ができあがっていきます。質の高い学童クラブでは、指導員と親のチームワークや親同士の結びつきが良く、みんなで子どもを見守っているという気持ちをもっています。

 しかし、学童クラブは強制ではありませんので、面白くないと子どもたちは友達の家に行ったりして寄りつかなくなるという事態が起きます。学童クラブが子どもの居場所になるように、指導員や親たちは子どもの興味・関心をひきつけるような独自のプログラムを工夫したりしていますが、親が働いていない子どもたちも学童クラブにやって来たくなるような場であることが望まれます。

   9) 思春期(小学校の高学年から中学生のころまで)の子どもの問題

 この時期は、第二次性徴があらわれるなどの身体の急激な変化にともなって、情緒的にも揺れ動く時期です。働く親にとって親や教師に反抗する思春期の子どもは気になる存在です。仲間の影響が強く、親を驚かせるようなファッションや行動にでます。子どもたちは自分のいらだちや不満を外に出しているわけですが、親が注意しようとするとわざと反抗したりします。思春期の子どもにとって相談できる地域の大人や、少し年長のお兄さん、お姉さん的な役割をとる若者がいるといいと思われます。かつては地域にそのようなおじさん、おばさんや親戚や近くの兄さん、姉さん的な人がいたのですが、地域社会の変化とともにそのような存在がなくなりました。今日では、子どもの自立を支えるようなネットワークづくりを積極的にしていく必要があります。

   10) 子育てをしている親と親を支える人のネットワークづくりが大事

仕事をもつ母親にとっても、専業主婦の母親にとっても子育てが難しい時代です。就労している母親の場合の育児の困難さは既にみてきたとおりですが、専業主婦である母親の孤立した子育て、追いつめられた心理状態についても無視することはできません。母親の心理状態は子どもに直接的な影響を与えますので、母親がゆったりと落ち着いた精神状態でいることが子どもの心の安定にとって不可欠です。子どもは心身ともにゆったりと安心できる環境で育つ権利があります。核家族で、子育ての援助者がいないという状況では、夫は職業のための拘束時間が長いため、子育ての負担は妻に重くかかっています。もはや、家庭保育だけでは子どもは健康に育たないのではないかとも思われます。地域の育児支援システムづくりが必要です。例えば母親が子どもを連れて集まれる場所、母親も子どももそこで友達と交わることができるところ、母親の休息の場所を確保することです。子どもが育つためには、家庭での養育と社会的保育が必要です。

   11) 父親の育児参加の重要性

 父親の役割の重要性は一貫してこの協議会で提言してきていることですが、父親は母親と同じくらい有能な育児者であり、父親と子どものかかわりが、子どもにとって望ましい影響を与え、父親も育児に積極的に参加することによって成長することが知られています。最近では、育児休業や育児時間をとる父親も少しずつですが出てきました。育児のパートナーとしての役割を取る父親が多くなることを期待したいと思います。

第2章 現状と課題

 「少子化」、「保育」、「子育て支援」等々のキーワードを私たちの生活において耳にしない日はありません。それほど、今、少子化によって私たちの生活にもたらされた影響が大きく、社会の根底にある社会保障システムや労働供給システムの枠組みを揺るがせつつあるとも言えます。そして、この少子化の要因を探れば探るほど、その対応策として欠かせないのが、「子育て支援」そして中でも直接的な支援である保育サービスの充実です。このことについては先の中間報告においても課題事項としてふれてありますが、働き方についての見直しと同時に行ってこそ効果を発揮するもう一つの柱なのです。少子化傾向とあいまって、子育ての社会化、保育サービス利用の一般化が当然のこととして話題に上るようになりました。保育サービスという言葉が示す範囲が実に多様であることは「第1章 基本的考え方」において詳しく説明していますが、保育ニーズを規定する絶対条件として、もはや「保育に欠ける」よりは「保育を必要とする」の方が私たちの生活感覚に合うようになっていると言えるでしょう。

 ここでは、このような保育サービスへのニーズが生まれる背景としてどのような事実があるのかを再確認し、今後の施策の展開に向けての検討につなげていくこととします。

保育サービスの実態

(1)種類

 はじめに、保育サービスの種類について見ていきましょう。「第1章 基本的考え方」において、ニーズの整理をした際に概略、保育サービスの分類についてふれていますので、簡単にまとめることとします。

大きく分けると、まず「家庭の中で保育を行うのか」また「家庭の外で保育を行うのか」という分類があります。家庭内で行う保育には、「保護者自身が行うもの」とベビーシッターなど外部者の手によって行うものがあり、後者は「在宅保育サービス」と呼ばれています。次に家庭外で行う場合ですが、この保育形態は二つあります。一つは施設による集団的保育を行うもので、これを本協議会ではセンター型保育サービスと呼んでいます。もう一つは家庭型保育サービス、個別的保育と言われるもので、家庭福祉員(保育ママ)等による少人数で行われる保育です。保育サービスの多様化という場合、以上の4つの大分類に分けられるサービスを運営する主体が多様になることによってもたらされているのです。それらについてまとめたものが以下の表です。

現在の保育サービスについてふかんしてみましたが、これからの対応の中で欠かせないのは、いかに認可保育所によるサービスとその他の民間サービスとを連携・連動させていくかという視点であり、利用しやすいサービスとして運営されていく仕組みを考えていくことにあるのです。

保育サービスの種類一覧

 
形態
サービス名
運営主体
家庭の中で
行う保育
保護者による保育
----------
----------
外部者による保育:

在宅保育サービス

ベビーシッター
民間企業
ファミリー・サポート・センター

(住民間互助による援助サービス)

住民団体

区市町村

社会福祉協議会

家庭の外で
行う保育
集団で行う保育:

センター型保育サービス

保育所
認可
区市町村

社会福祉法人

認可外

事業所内

ベビーホテル等

民間企業等
       保育室
個人

区市町村・都による助成

少人数で行う保育:

家庭型保育サービス

家庭福祉員(保育ママ)
個人

区市町村・都による助成

(2) 利用の状況

 現在、就学前の子どもたちはどのような場所で過ごしているのでしょうか。幼稚園か保育所のいずれかで集団での保育サービスを利用している割合は年々増加傾向にあることが報告されています(東京の保育P28)。前に述べたように、4、5歳児では99%で、すべての子どもたちがいずれかのサービスを利用していることがわかります。

 従来、母親が働く家庭を対象としてきた保育所での保育サービスですが、その利用の仕方や利用者の姿が変化してきたことは前段でもふれてきましたし、中間報告でも現状と課題の中でとらえています。そして、ここでは特に注目することができる最近の変化、また特徴的な点についてまとめました。

1) 0歳児など乳幼児を育てながら働く母親の増大

子どもが小さいうちから働く母親が増えています。例えば、これまで働く既婚女性のうち、妊娠・出産を理由に退職する人が30%程度いましたが、近年、これが急速に減っています。労働省の調査では、働く既婚女性で妊娠・出産を理由に退職する人は1997年に19%となっています。つまり、逆に言えば働いている女性の8割以上は、出産しても仕事を辞めずに続けようとしているというわけです。

その背景を考えますと、子どもが大きくなれば教育費などのために再就職しなくてはならないが、再就職の難しさを考えると、今の仕事を続けたいと考える人や、男性の雇用も不安定化しているので、子どもがいるからこそ家計の安定のために仕事を辞められないと考えている人が増えているということも一つであると思われます。

また、法的に定められた育児休業は1年であるため、多くの母親が子どもが満1歳になるまでに、職場に復帰します。ところが認可保育所の0、1歳児の定員はまだ非常に少ない状態です。例えば前田の試算(前田正子『保育の多様化』、季刊「社会保障研究」第34-1,1998)に基づくと、母親が働いていて保育を必要とする0歳児のうち、認可保育所で保育されているのは全体の3分の1程度だと考えられます。働く母親に対する様々な調査を重ねあわせると、認可保育園に入れなかった3分の2の0歳児の多くは親族、つまり祖父母に保育されており、さらに残りの子どもたちは認可外保育サービスを利用しているようです。

997月に発表になった厚生省の「1998年国民生活基礎調査」によっても、0歳児をもつ母親の2割は働いていて、さらにその0歳児の3人に1人は祖父母が保育しているという結果になっています。

このように、乳幼児をもつ多くの母親が就労を一時中断しても辞めずに働き続けようとしており、これらの層に対する認可保育所でのサービスは必ずしも十分ではなく、代替手段を駆使して子育てを行っている家庭の姿が浮かび上がってきます。

2) 休日出勤や夜間勤務など多様な働く状況

現在、女性が最も多く働いている産業はサービス業です。特にデパートやスーパーなど小売業では一般の人々が休日である土日がメインですし、閉店時間も遅くなっています。さらに美容室や理髪店などの自営業の人も日曜日に働くのが当たり前です。また、介護や医療の現場には、休日出勤、夜勤はつきものです。介護保険が本格的に始まれば、介護の現場で働く親も大幅に増えることが予想されます。このように親の働き方は非常に多様化しています。実際、夕方6時の閉園時間に毎日迎えにこられる親は、よほど恵まれた職場にいるか、迎えの人手を雇えるだけの財力があるか、たまたま近くに二重保育をしてくれる祖父母がいる人だけと言っても過言ではありません。

しかし、認可保育所では休日保育はほとんどなく、また増えてきたとはいえ延長保育を実施している保育所もすべてというわけではありません。東京の公立保育所では運動会などの大切な行事も、公務員である保育士の労働条件の確保ということで、平日に開催されるなど、働く親と子どものウエルビーイングに配慮しているとは言いがたい状況にあります。そのため、もともと認可保育所を利用するのは難しいということもありますが、これに加えて、あえて延長保育や夜間保育、休日の利用も可能な認可外の保育サービスを選択する親もいるというのが現在の状況であるといえます。

3) 専業主婦の保育サービス利用

認可保育所は主として共働きの家庭や働くひとり親の子どもを対象とした保育サービスですが、専業主婦の母親をもつ家庭には保育ニーズがないわけではありません。昔は子育てを支える地域や親族のネットワークがありました。しかし、今では都会や地方を問わず、専業主婦の母親たちは、育児の相談相手や友人を見つけるにも苦労し、孤独な育児に悩んでいる場合が多く見られます。少子化が進んでいることもあり、公園にいっても同じような年の子どもがいないということもあります。そこで、最近では認可保育所でも育児相談や、園庭開放、育児サークル支援、一時預りといった活動で、専業主婦の母親や子どもを対象とした活動を展開しています。

実際、認可保育所での一時預り保育などの利用者は専業主婦も多くなってきています。ある認可保育所では、一時預りの子どもを年間延べ5,000人預かっていますが、利用理由の約30%が母親の入院・下の子の出産といった緊急要件です。そのほか、冠婚葬祭のような社会的要件が約30%、子どもから離れてお稽古事などに行きたいというリフレッシュ要件が約15%となっています。このように、専業主婦の母親をもつ在宅の子どもたちに見られる潜在的な保育ニーズには大きなものがあります。

専業主婦の母親も、どうしても子どもを誰かに預かってもらわなければならない用事があるときもあり、そのときに気軽に利用できる保育サービスがあったら、子育ての負担感はかなり軽減されることでしょう。しかし、一時預りを行っている認可保育所はまだまだ少なく、緊急の要件をかかえた母親たちは、ベビーシッターを頼んだり、認可外保育所に子どもを預けるなどにより、何とか乗り切っているのです。最近では、これらの手段によって子どもの面倒が見られない場合、用事をあきらめるのではなく、コインロッカーに「一時的に」子どもを預けてしまう若い母親も見られるようになり、子どもの命や育ちにとって忌々しき問題と言わざるを得ない場合も見られます。このような例は、決して極端な一部の例ではありません。すべての子どもをもつ家庭が、安心して子育てできる環境の整備に全体的に取り組むことが望まれます。

4) 就学前保育の社会化

先に述べたように少子化の進展や、地域で子育てを支える環境が少なくなってきていることから、働く母親だけでなく専業主婦の母親たちでも保育サービスを必要としていることが認識され始めています。例えば、子どもが集団で遊ぶ機会を保障するために、ということで幼稚園も3歳の誕生日から入園できることとなりました。実際には、私立幼稚園の半数近くは午後も子どもを保育する「預かり保育」を実施していて、まだ数か所ですが保育所並みに夏休みや冬休みもなしに、毎日夜7時ぐらいまで保育している幼稚園もあります。さらに2歳児からの保育もいくつかの幼稚園で始まっているようです。また、経営的にも、幼稚園が保育所を運営することも今後可能になり、幼稚園と保育所の境目がだんだんとなくなってきています。

また、認可保育所や幼稚園以外の保育サービスを利用する人も多くなってきていることから、就学前の保育と教育のあり方を考え直す時期がきたという議論が起こっています。このように、サービス供給主体側の変化と、利用者側である子育て家庭の状況の変化があいまって、新しい潮流を作り出しています。その流れの方向を定めるためには、今後も多くの議論を尽くしていかなければなりませんが、就学前の子どもに対するケアサービスの位置づけとその実施体制については普遍化・社会化していく方向にあるといえるのではないでしょうか。

5)学童児童への放課後ケアの必要性

就学前児童への保育サービスへのニーズの高まりとともに、サービス整備が必要とされているのは、学童児童の放課後のケアです。これは、学童クラブや放課後児童クラブという名称で、自治体レベルでのサービス提供がなされてきたものです。平成10年度からの改正児童福祉法では、放課後児童健全育成事業として、この放課後のケアが法定化されました。実際、法定化される前も児童館・児童センターや学校の余裕教室等を利用して、既に全国で8000か所以上の放課後児童クラブが運営されていました。東京都では、19975月現在で1,179か所の放課後のケアを行うクラブが存在しており、約33,000人の子どもたちが登録しています。就学前の子どもをもつ家庭に対しては年々サービスの充実が図られてきており、クラブ定員及び登録児童数も年々増加しています。

手厚かったサービスが、小学校に上がった途端に少なくなり、働き方を変えたり、仕事の継続を断念したり、また無理やり子どもの居場所確保のための習い事や塾の利用をする場合も見られています。特に低学年の場合は放課後の過ごす場所、過ごし方などについての支援を必要としています。本協議会においても、就学前のサービス支援の流れが就学後まで一貫していないことが指摘されました。子どもを育てるというのは、乳幼児などの就学前の時期だけでなく、継続した作業であり、子どもの発達や成長に応じて、様々な問題や課題に直面していきます。また、ニーズに合った内容や方法で実施されているか、という点も指摘されました。放課後のケアは、利用者層の意向や考え方が一律ではないため、同じ家庭環境や生活状態の家庭の子どもであっても、利用している者とそうでない者が存在し得ます。利用サービス的な性格をもった「遊びの場」的なものである反面、「就労などにより、昼間家庭にいない」という条件が付いており、保育所ほど厳しくはないものの、利用の制限条件付きの「生活の場」であるという位置づけになります。そのため、友達がクラブに登録していないために一緒に遊べない、またそのために利用しないという場合も見受けられ、必ずしも利用者のニーズに合ったサービスが提供されているとは言えない状況にあります。また、現在の勤務事情や生活時間帯の変化から、時間延長など実施時間の見直しも働きながら子どもを育てる環境整備の重要な要素であるといえます。実施場所についても環境・設備の違いが著しく、子どもたちが家庭のかわりに時間を過ごす場所として適当であるのか、といった声も聞かれます。

子育てについて、社会で担っていくという意味においても、また、子どもの視点にたった環境の整備という意味においても、継続した支援の流れを作ることはとても大事になります。また、放課後の子どもたちの居場所づくりは、非行防止や健全育成の視点からも必要と考えられており、家庭外での子どもの居場所づくりの意味でも注目されています。放課後のケアはクラブという登録制のサービスばかりでなく、児童館や児童センター、プレイパークといった資源との運営連携・協力も必要となってくるでしょう。今後は、地域の資源配置や生活状況などをもとに、地域に合った放課後のケアサービスが発展していくことも一つの展望ではないでしょうか。いずれにしても、利用者の希望や意向を反映した形でのサービス提供ができるような形での実施が望まれているのです。

6)思春期の子どもと家庭へのかかわり

この時期は心身ともに急激に成長し、自我に目覚め、第二次性徴が表れ、情緒的にも不安定になる時期です。様々な態度や言動で心の不安を表わし、時にはそれが反社会的な行動であったり、また不登校という形であったり、表れかたは一人ひとり違います。この時期は家庭での見守りとともに、家庭以外の居場所、理解し受け止めてくれる大人や仲間の存在が大変重要になってきます。家庭では親とのかかわりが疎ましくなり、反発を感じる時期ですが、指導的なかかわりでなく子どもと同じ目線に立ち、受け止める援助サービスの必要についても指摘されています。最近では、不登校児童の増大への対策として、文部省や東京都ではスクールカウンセラーを配置する事業を始めました。学校と家庭以外の第三の居場所(拠り所)をどのように考えていくかが今後の課題でもあります。

 また、思春期は将来の親、子育ての担い手としての意識を形成する最初のきっかけの時期でもあるとも言えます。このことを「親準備性」、「」とも表現しますが、思春期に乳幼児や年少の子どもたちの世話をしたり、遊び相手や相談相手になるなど、直接かかわる機会を確保することは、昨今の少子化社会において重要なことではないでしょうか。身の回りに親しくふれあい、かかわり合うことができる乳幼児がいない場合、大人になっても子どもに対する慈しみやいたわりの感情をもつことが難しく、幼いながらも意思をもった権利の主体として乳幼児の行動を受け止めることが困難になってくることが考えられます。子どもが身近にいるということが、自然なこととして受け止めていく環境を整備していくことも、この時期の重要な課題であるといえます。

 この時期は、子ども自身の育ちの中で不安な時期であると同時に、貴重な体験期でもあります。子どもたちの不安定な気持ちを受け止める一方、子どもとの接触時間、コミュニケーションの時間が少なくなりがちで、子ども生活がよく見えないで不安になる親たちへのサポートも求められます。

 

高まる保育ニーズに応えるために

 次章より本協議会が考える就労と子育ての両立にふさわしい保育サービスについて提案していきますが、それに先立ちもう一度確認しておくことをまとめてみます。

(1) 選択するということの意味

保育サービスは子育て支援の有効な戦力として社会的に認知され、歓迎をもって受け入れられつつあります。このような中で求められるのは、親など保護者の「選択することの責任の重さ」です。子どもの育ちに本当に必要なものは何なのかを家庭の状態や自分自身の状態と考え合わせながら慎重に選択していく判断力と、それを裏付ける情報収集力、そしてもし選択したサービスが子どもの育ちにそぐわない、利用しにくいという状態になったときに改善要求、不服申立てをする力、または次のサービス選択へと動く行動力・決断力が求められるということを意味します。

これからの保育サービスは、「保育を必要とする」層に対して働きかけていく方向にあります。まず、そのときに保護者が「保育を必要とする状態」を的確に判断していくことが必要になるのです。もちろん、行政側も情報提供や相談サービスを充実させることにより、保護者のサービス選択にかかわる判断を助けていく環境を整備していくことが必要になります。また、できるだけ良質なサービスが提供されるように、基本的なガイドラインを設ける等サービスの質の確保に努めていくでしょう。しかし、その中で「選択」という最終行為を決定するのは保護者自身であることを忘れてはなりません。行政側は選択できる環境を整備していくことが今後の課題となりますが、それを選択する保護者、利用者がどの程度声を出し、参画していくかによって提供されるサービスの中身も変わってくることでしょう。選択肢が多くなるということは、便利になると同時に、その選択にそれぞれが責任をもつ「契約関係」となるのだという意識をもつことが必要になってくるのです。

(2) 保育サービス提供者側の使命と役割

利用者に選択することの責任が生じると同時に、提供者側にも厳しい自己規制と倫理観、また子どもにとっても望ましい保育とはどのような状態、技術、環境を言うのか等についての確固たる認識をもつ必要があります。単に新しいマーケットで、利益が上がり、かつ採算性に配慮しながら提供・実施するだけでは、「保育サービス」という公共性の極めて高いものを提供するにふさわしいとは言えないのではないでしょうか。子どもはどのような子どもであっても同じ権利と尊厳を有しており、最低限踏まえなければならないことに配慮するだけでなく、常により質の高いもの、直接的なサービス利用者である子どもたちの変化や反応を敏感に感じとる意識をもつことが求められているのではないでしょうか。

そして、これらのことを実現していくために欠かせないのが、実際に保育に携わる人たちです。どんなに経営者が崇高な理念を掲げていても、現場での日常がそれにそぐわない場合は、決して質の高いサービスとは言えません。保育は実際に子どもたちと接し、家庭の状態をうかがいながら実践していく対人サービスです。保育サービスにかかわる者は、決まりきったマニュアルに基づいた作業を繰り返し行うだけではない、生活支援サービス、発達支援サービスであることを心しながら、利用者とともにサービス提供をしていかなければならないのです。そして、その利用者とは選択する保護者であり、子どもが成長し、すごす家庭であり、何よりも子ども自身であることを忘れてはなりません。保育サービスは子どもを中心とした環境、場、空間がうまく機能し、調整できるよう、常に子どもと家庭のウエルビーイングを確保するための支援サービスとして、実践される必要があります。

(注)「ウエルビーイング」とは、個人の基本的権利が保障され(つまり、生命、健康、発達が脅かされず)、自己実現がなされている状態をいいます。

第3章 今後の方策

 保育サービスがいくら充実しても、これだけでは家庭と仕事の両立を実現することはできません。人々の意識をはじめとする社会の姿勢、職場での働き方、家庭生活のとらえ方、男女ともに一人の人間としての生き方、子どもを育てる、子どもが育つにふさわしい環境の整備など、多くの事柄が同時に少しずつ前進していくことが必要です。しかし、その中で最も直接的で効果が期待されるものが働き方を左右する雇用環境の整備と保育サービスのあり方を再検討することであると本協議会は考えました。この二つが両輪となって起動し始めることが、まず必要なのです。

このような考えに基づき、基本的考え方、現状・実態を踏まえ、仕事と子育ての両立支援に向けて必要と考える保育サービスはどのようなものかについて具体的な事業をイメージして提示しました。

1. 子どもの養育・育成環境をめぐる意識を転換する

2. 多様な保育サービスメニューを整備する

3. 良質なサービスの提供と保育サービスにかかわる人材を育てる

4. 子どもと親のウエルビーイングを支える

この4つの施策分類は、中間報告に挙げた4つの柱(1.子育てをしやすい仕組みにかえる、2.日常のゆとりある子育て時間を確保する、3.親子の絆を強め、子どもの成長を見守る期間を確保する、4.子育ての楽しみをひろげる)を目標概念として統合するというイメージです。中間報告では保育サービスについても「第3章 施策の方向性2 日常のゆとりある子育て時間を確保する」において言及しましたが、本報告書で提示する4つは、中間報告の4つの柱をそれぞれ実現させるために必要な保育サービス分野の整理であると考えることができます。中間報告では日常のゆとりある子育て時間を確保するための一つの有力な手段として保育サービスをとらえ、企業参加によって実現可能となるであろうと考えられる施策について提示しました。しかし、今回は日常生活のゆとり確保以外の目的、すなわち上記の4つの柱に示した事柄を達成するために、既存の事業枠組みや実施体制にとらわれず、私たち利用者の生活をベースにして、保育サービスのあり方について検討しています。

なお、今回の報告での重点事業(施策)は、事業名を太字で表記しています。中間報告と合わせてこの重点事業は、本協議会が提示する最重要事業です。そして、事業の概要の項目を■と□の二つの印で分けて表記しました。■は既に部分的にでも実施されているもので、内容の充実及び変更を行うことが望ましいと考えられるものです。□は、今回の協議会で新たに提言するもので、現状の既存枠組みにおいて実施は困難であるが、将来は追求していきたい方向を示しているものです。

また、(再)は中間報告で既に提言した事業です。

1.子どもの養育・育成環境をめぐる意識を転換する             

<施策の方向性・考え方>

中間報告でも、重要事項として挙げたように、子育てしやすい仕組みに社会全体を変えるには、私たち自身の考え方、意識を転換させていくことが必要です。本報告においても、子育て家庭に対する社会全体の暖かいまなざしと支援が当然のこととなって初めて、「子育てしやすい仕組み」が実現するのではないでしょうか。ここでは、子どもをもたない人も、子育てを終えた人も、そして現在子育ての真っ最中にある人たちもすべての人たちが、「子ども」という存在を肯定的にとらえ、次代を担う人材として導き育てていく風土・風潮を作り出していくことが必要ではないかと考えます。子どもをもつ家庭の第一義的な養育責任は保護者にあります。国連も育児や介護を「家庭的責任」と定め、すべての人が働きながら家庭的責任を果たす社会を目指して環境整備を進めています。「働くこと」と「家庭での育児」は、どちらか一方を選択するものではなく、両方をバランスよく進めていくことができる社会を実現することが、今求められている方向であるといえます。女性だけではなく、男性も、企業すべてを対象として社会全体の意識、すなわち国民的合意(コンセンサス)の形成に向けた統一的な方向性を提示していくことが大事ではないでしょうか。

わが国も超高齢社会を迎え、介護等高齢者施策についての本格的な検討は既に20年以上が経過したこともあって、介護保険の導入という国民全体で支え合うシステムが構築されようとしています。もはや、介護は家族が家庭内で担っていくものではなく、社会全体で担っていくものであるという合意が形成されています。そのため、介護を主として家庭外のサービスに委ね、自らの生活の維持を優先的に考えていくことは、当然のこととして認められていると言えるでしょう。高齢者の分野では、ショートステイやデイケアサービス等のメニューが、利用理由を問わずに利用できる仕組みができあがっています。こうして「介護の社会化」に向けたシステムが始動し始めています。

一方、子育て支援の方へ目を転じてみましょう。高齢者分野に比べ、子どもは成長し発達する未成熟なものであるという絶対的な違いがあります。そのため、保育サービスの利用を始めとする「子育ての社会化」が子どもの育ちに対してどのような影響があるのかを実証するための研究が方々で取り組まれているもののいまだに明確な解答を求めることはできていない、身体的・精神的影響がはっきりと実証されていない、という発展途上の分野であるという違いがあります。また、従来から家庭内での育児・家事は女性の仕事としてとらえられており、良妻賢母教育に代表されるように「良き家庭人」を養成することが教育の一つの使命であった時代が長く続きました。そして、それを求める男性型の企業社会が形成され、経済が成長するにつれてその存在価値が認められてきました。そのため、祖父母や親族といったインフォーマルな援助に対して、子育てを家庭外のサービスに委ねるということに対する抵抗感はとても大きく、強固なものになって人々の意識の中に定着してきました。

いずれにしても、子育ての社会化を促すためのサービスはいまだに貧困です。育児ストレスの解消やちょっとした息抜き理由に保育所の一時保育を利用できるようになりましたが、社会の意識はそのような利用に対しては、まだ非常に冷たいものがあります。もちろん、利用要件には「私的理由」も認められてはいます。しかし、それはあくまでも「空き」があった場合であり、実施保育所は限られています。また、ましてや多くの自治体の場合がそうであるように「1か月前から予約」しなければならない等という制限つきであったら、なんとも使い勝手の悪いサービスではないでしょうか。「ちょっと疲れたから2時間だけゆっくりとしたい」という時に1か月前から予約して一時保育を申し込む人がいるとは思えません。つまり、いまだに「子育ての社会化」については合意が形成されてはいないのです。

「子育ての社会化」には賛否両論があることと思いますが、まず大切なのは、子どもをもつ家庭が負担をそれほど感じることなく、子どもを育てることを楽しみながら日々生活できる環境を整備することなのです。それは、そこで育つ子どもたち自身にとっても望ましいことといえます。そのためにはそのような環境を求める人々の意識を喚起し、結束し、大きな潮流としていくことがとても重要になるのではないでしょうか。

<具体的事業案>

事 業 名
概        要
保育サービス利用意識の改革を促す意識啓発活動
■保育サービスの利用は子どもの成長発達の視点からも、保護者の育児負担の軽減の観点からも必要なことであることから、すべての子どもと家庭は保育サービスを利用する権利がある、という趣旨の意識啓発活動を行う。ポスターの作成、配布など。
「家庭的責任」意識の徹底を目的としたキャンペーンの実施(注)
□企業は積極的に就労者の「家庭的責任」実行のために協力し、そのための体制を整備しなければならないなどのキャンペーンを展開する。
育児休業制度の充実
□中間報告で提示したオプション案に加え、育児休業の取得を子どもが3歳までの期間であればいつでも取得できるような仕組みの変更を提案する。
短時間労働制度など子育て期にあった働き方の促進
■子どもを育てる期間はすべての人が同じサイクルであるとは限らないため、個々の仕事と子どものニーズに合った働き方ができるように、短時間労働制度やフレックス勤務、在宅勤務など柔軟な形態を促進し、継続就労しやすい雇用環境を整備していく。
中小企業主を対象とした子育てファミリーセミナーの開催

 

 

■大企業の場合は仕事と家庭の両立に対する理解が比較的進んできており、各種の施策が実施されてきているが、中小企業の場合は、経営上の問題もあるが子育てしながら働き続ける女性の数が少ないこともあり、父親の育児参加に対する理解も浅く、子どもをもつ家庭への理解が十分であるとはいえない。

■子育てファミリーの実情と社会の子育て支援の動向などについてのセミナーを中小企業主を対象に行い、家庭と仕事の両立がいかに重要であるかの理解を深める。

学校教育と保育体験プログラムの連携
■思春期の子どもたちの貴重な「親性」教育の一環である乳幼児とかかわる機会を恒常的に確保できるような関係づくりを行うため、現在実施されている中学、高校での保育体験授業を継続的に実施することや、地域の保育所や幼稚園との共同行事を実施することなど、学校教育とのかかわり方を見直していく。

■その際、保育所側の日常プログラムや子どもたちの様子に配慮した連携のあり方ができるような工夫が求められる。

パパ育児奨励モデル事業

(再)

□父親の育児休業の取得例や健診等へのアテンド等、従来母親が担うことが圧倒的に多かった育児を積極的に行っている人を自薦・他薦を問わず募集し、審査をし顕彰する事業。

□このことによって、父親の育児参加の事例を社会的に広めることで動機づけ(自分だってやっている!)を意識的に高め、活発化が期待される。

子育て支援優良企業モデル事業
□就労と家庭生活の両立を推進するための制度を導入している企業に対してはその実績を評価し、制度運用の一助となる費用を支給する。

□また、新規に導入を検討している企業に対しては、導入経費の一部補助を助成するモデル事業を行う。

(注)「家庭的責任」とは、国連の「家庭的責任を有する男女労働者の機会均等平等等待遇条約」に用いられた言葉で、子育てや介護をはじめとした家事等を含む家庭運営のための作業を遂行する責任のことを意味します。

 

2.多様な保育サービスメニューを整備する                

<施策の方向性と考え方>

核家族化や女性の就労形態の変化に伴い、その保育ニーズは従来の保育サービスでは対応しきれないほど多様化してきていることは、先の「基本的考え方」や「現状と課題」でもふれたとおりです。従来、行政側が待機児童ととらえてきた「第一ニーズ群」だけではなく、今後は第二ニーズ群以下その他のニーズについても、何らかの受け皿を整備していくことが求められています。その場合、すべてのことを区市町村をはじめとする公的部門が丸抱えして行うというのではありません。多様なサービスが出現するということの裏側には、多様な実施主体が存在するということがあります。また、公民が協力し合う形も見られるでしょう。いずれにしても、多様なニーズに応えるためのサービスを整備するためには、今までどおりの硬直的な実施体制ではなく、サービスの質の維持を前提とした多様な主体によるサービスの提供を考えていく必要があります。

まず、従来の保育所を中心とした公的部門によるサービスの提供はどのように変わっていくことが望ましいのでしょうか。平成10年4月より改正児童福祉法が施行され、また来年の4月からは保育所保育指針が改定されることになり、法的にも、また内容的にも、保育所に求められている機能はずいぶんと変わりました。入所している子どもたちその家庭に対するだけでなく、地域の子育て支援サービスの拠点として地域住民に対して開かれた施設となることが求められています。それとともに、メニューはあっても実際には使い勝手の悪いサービスを使いやすいものにしていくための改革が求められます。サービスの評価は「実施している」という実施事実だけによって評価されるわけではありません。そのサービスが本当に利用者のニーズに合っているのか、また利用者は満足しているのか、ということをクリアしていくことになるでしょう。一時保育を実施していても対象人数が極端に少なかったり、また週に数度定期的に利用することができなかったり、事前予約がなければ受け付けなかったりしたら、そのサービスは実際にないものと同じではないでしょうか?運用でサービスはいくらでも使いやすくすることができます。エンゼルプラン以降、待機児童の解消を目的とした定員枠の拡大や特別保育事業の充実が進められています。今後もこのような取組を継続していくことが求められます。

わが国では保育所による集団保育を基本として、保育サービスが発展してきましたが、このほかの形態も、今後の保育サービスの多様化には欠かせません。特に小規模であり、個別的な保育を実施してきた家庭福祉員の制度は、東京都が他の道府県に比べ整備されている重要なサービスの一つです。全国的に家庭福祉員制度として集団ではなく家庭に近い雰囲気での保育が注目され始めています。行政側の位置づけは保育所の待機児童の受け皿であり、補助的なサービスとして発展してきましたが、最近は子育て家庭側のニーズの多様化から、個別的な配慮が可能である家庭型保育を希望する保護者も見られるようになりました。平成10年12月現在で1,200人がこのサービスを利用しています。厚生省は、平成12年度の予算要求で、保育所と家庭福祉員などの家庭型保育サービスの従事者との連携を深め、地域の保育ニーズに対応する重要な手段として位置づけようとしています。保育所で行われる地域子育て支援センター事業の項目として「家庭的保育を行う者(いわゆる保育ママ)への支援」を追加し、保育所が研修を実施したり、集団保育への参加プログラムを実施する場合の費用を補助することとしました。このように、家庭福祉員の制度は側面から支援され始めており、多様な保育サービスの一つとしてその質と実施体制を整備していくことが自治体に求められていると言えます。

家庭福祉員は保育士、教員、助産婦、保健婦、看護婦の資格を有する人が対象となっており、専門性を有した人材が担っていく専門的な保育サービスです。しかし、子育て経験を重視する自治体もあり、総体的に現在は専門性を絶対条件にした専門サービスであると言い切れない状況にあります。この家庭的保育は認可保育所の補完事業として位置づけられていることの趣旨を重視すれば、資格要件の徹底と研修などによる継続的な資質の向上は必須と言えるでしょう。

一方、保育所の補完的事業ではなく、センター型保育とともに就学前児童の保育について積極的に担っていくべきものであるという考え方も必要になってきています。集団での保育になじまない子どもや個別的な配慮を必要とする子どももいます。また、保育者(家庭福祉員)によるサポートは、身近にインフォーマルなサポーターをもたない場合が多い東京の子育て家庭にとって、心強い味方であるといえます。これらの意味においても、積極的に家庭型保育を選択するという考え方も検討する必要があるのではないでしょうか。この場合、解決しなければならないことがいくつかあります。まず、家庭福祉員の資格等の見直しが挙げられます。6歳未満の自分の子どもをもつ場合は家庭福祉員として働くことはできません。また、育児専用室として9.9u以上の部屋が基本的に1階になければならない等、昨今の東京の住宅事情からは難しい制約も課せられています。

現在でも、保育士、教員、助産婦、保健婦又は看護婦のいずれかの資格を有し、一定期間保育所や児童福祉施設で低年齢児保育の経験がある場合は、子どもをもたなくても家庭福祉員として働くことができます。家庭福祉員の種類も多様化させていくことを展望していくのであれば、自分の子ども(乳幼児)と一緒に保育していく種類の家庭福祉員や、補助員がいる場合はきょうだいを含む5、6人を受けもつことができること、また補助金支給方法の見直しなどの新たな検討も期待できます。また、自宅だけではなく、区市町村の借り上げによる専用室を利用できるようにしたり、地区ごとにグループをつくり、地域の保育所の共同利用や、休みの時のシフトなどを円滑に行えるようなコーディネーション・ユニット(調整部署)を設けていくことも考えられます。この形は家庭型保育を制度として位置づけている欧米諸外国で既に実施されている形です。

多様なサービスを整備するためには、既存の制度を十分に活用し、柔軟に対応していくことが必要となります。保育所と家庭福祉員など家庭型保育サービスとの連携が強化されることにより、家庭福祉員のフォローアップやスーパーバイズといったバックアップの体制も整備しやすくなっていくことでしょう。

厚生省の在宅保育サービス利用券制度による助成が行われているベビーシッターなどによる在宅保育や、労働省のファミリー・サポート・センターのような住民同士の互助による援助サービスも、保育所や幼稚園等センター型の保育サービスの隙間を埋める柔軟なサービスの一つとして広がっていくことが期待されます。今後は家庭福祉員によるサービスや在宅保育サービスはあくまでも「専門性」を基盤としたサービスであり、住民互助によるサービスは「子育て経験」や「利便性」を重視したサービスであるというすみわけをしながら、両者の発展を図っていく必要があるものと考えます。類似サービスがいくつも存在することは、利用者にとって便利であるとも言えますが、質の維持を難しくするとともに、無駄な経費を投入することになるというおそれがあると言えるでしょう。

中間報告でもいくつか提案しましたが、企業側が保育サービスの提供主体となることは大いに可能性のあることです。職場と保育の場所が近いことは親にとって安心であり、また仕事内容や働き方を理解してくれる保育サービスを利用できることは、家庭生活の充実とともに、就労意欲を高めることにもつながっていくのではないかと考えます。今後は、区市町村の地方自治体は財政のひっ迫から民間企業との連携や共同実施などを模索していくことになるでしょう。アメリカなど諸外国では自治体と企業が共同で保育所や学校を経営しているという例が見られています。このような方向も一つの可能性として検討していくことは、多様な保育サービスを整備していくという目的に沿ったことではないでしょうか。

 

<具体的事業案>

事 業 名
概        要
利用しやすい保育所サービスに向けた見直し
■保育所による小学校1年生を対象とした学童保育の実施。

■在宅勤務の場合も、週に2-3日程度の利用ができるようにするなど非定型保育サービスを実施する。(一時保育の定期的利用が可能にするという考えもあり)

■区市町村の域を越えた広域入所を活発にし、選択範囲を拡大した保育所の利用を可能にする。

■病後児保育(乳幼児健康支援一時預り)等利用者の数が一定でなく確定しにくいサービスは、運営するのが難しいことから、ネットワークを作り対応する。

家庭福祉員制度の見直し
■資格要件の徹底、研修制度の確立を行う。

□保育所の補完的事業としてではない家庭型保育サー ビスの確立を目指す。

良質の保育サービス提供の実績により低年齢児保育サービス事業における地位を確立する。

□上記事項を前提として、以下の検討を行う。

自分の子どもが乳幼児の場合でも、従事できる条件を整える。

補助者がいれば5人以内の子どもを預かることが できる。

育児専用室として9.9m2以上の部屋が自宅にない場合は、民間住宅の借り上げによる場所の提供などにより、従事できるようにする。

家庭福祉員制度の見直し
□家庭型保育サービスの保育者を調整するコーディネーション・ユニットの設置など家庭福祉員のバックアップ(休暇の時の代替要員の確保等)、また特別

 に配慮が必要なとき(病児、病後児、障害のある子ども、外国籍の子ども等)にアドバイスを行う等のバックアップの機能を充実させる。

幼稚園との連携
■保育所と幼稚園の相互交流を園舎の共用化だけでなく積極的に進める。

■幼稚園による保育室の運営。

■幼稚園職員に対して、預かり保育の時間の午睡や食事のとり方など保育研修を実施し、子どもの生活に無理のないサービスを提供していくことができるようにする。

保育士バンク制度の実施
□保育士資格のある住民を「保育士バンク」として登録し、緊急対応が必要な場合等に在宅で面倒をみてもらいたい場合に派遣するヘルパー制度。

□登録による専門職のヘルパー制度を実施することにより、緊急事例には対応しにくいファミリー・サポート・センターや、保育所でのサービスの補完となることができる。特に、緊急、病児、夜間などに対応する。この場合は、利用理由を限定しても可能。

□専門職員によるケアを希望する家庭に対して派遣する東京都版ベビーシッター制度。国の(財)こども未来財団が実施しているものは利用料補助であるが、ファミリー・サポート・センターと同程度の金額(時給800円)で派遣する等実費をとって運営することも考えられる。

□病児の場合は、看護婦資格を有するヘルパーを派遣し、かかりつけ医との連絡により保育をする。(看護婦ネットワーク)

□保育士バンクに登録したものに対しても研修を行い、家庭福祉員として従事する人材を育成していく。

民間事業者による保育サービス事業育成のためのモデル事業
□民間事業者による保育サービス事業が活発になるよう、ベンチャー企業の育成を行う。立ち上げ資金を補助するなど財政的な援助を行う要件として、保育の質の面、経営の健全性などを含め審査を行い、良質な民間企業の育成を行う。
入所予約制度の充実
■産休・育休明け入所予約だけでなく、就労予定に基づく利用予約ができるようにする。その代わり、予約をキャンセルする場合は、一定の料金を徴収することも可能。
共同保育所や育児サークルによる保育サービスのサポート
■地域の共同保育サービスや育児サークルの活動に対して、場所の確保や遊具の貸与などを児童館や保育所と連携を組んで行い、これらの主体による保育サービスの実施をサポートする。
特別な支援を必要とする子どもたちへの保育に関する相談事業
■障害のある子どもや外国籍の子どもなど、特別な支援・ケアを必要とする子どもと家庭で保育所を利用していない子どもや家庭に対する相談を受け付ける窓口を設置(既存の子育て相談に拡充も可)する。
学校の余裕教室の活用
■学校の余裕教室を活用し、廃園となった公立幼稚園の職員などを充当して(1)親子での育児ひろば、(2)非定型保育サービス、(3)一時保育、(4)学童クラブ(小学校で実施しているところは連携する)などを行う。
児童福祉施設での一時保育等の充実
■現在でも一時保育やトワイライトやショートステイを実施している乳児院、児童養護施設などの児童福祉施設はあるが、子育て支援サービスの一環として実施していくという意味をより前向きに出し、事業のより充実を図る。

■補助条件として、通常、施設には保育士が配置されているため、施設での就学前児童の保育と共に保育できる基準である場合は加配を行う必要をなくするなどの工夫を行う。

事業所外保育サービスの充実(employer sponsored保育企業優遇制度)

(再)

 

□企業が自前で保育施設を整備するのではなく、既存の保育サービス実施主体(社会福祉法人、企業、自治体)とタイアップして、事業所外保育施設を整備することを促進する。

□従業員のための福利厚生制度の一環として積極的に推進しやすくするため、事業所税や法人税の控除・減額を行う等経営的メリットを企業サイドに付与した制度を創設し、経営的なインセンティブを付与することも有効であろう。

□中小企業等一社単独での実施が財政的に困難な場合近隣(異業種を含む)企業の連携や同業他社でネットワークの形成を進め、一社の負担をできるだけ抑える工夫となるような体制を整える。

認可保育所との連携によるemployer sponsored保育の推進

(再)

■分園化や幼稚園との園舎の共有化等を利用し、認可保育所入所定員枠を設ける。分園保育所の設立費用を企業側が援助する(東京都がモデル事業として推進する)ことにより、分園形式での認可保育所を整備し、特定事業所の従業員枠を設ける。

■定員の○○%分は育児休業明け枠、もしくは雇用主からの委託証明書を有した利用希望者枠を設ける。

■当該地域に居住する企業雇用者からの利用申請に対して入所を約束する仕組みを構築したケースをモデル事業として経済的支援を行う。

ホスト・ファミリー制度の導入

(再)

■乳幼児だけでなく、18歳未満の児童を対象とした家庭的保育サービスを育成する。週末里親、放課後里親として援助者の家庭において保育(時間を過ごす)を行う制度。

■ホスト・ファミリーとして活動したい家庭を登録する形式。

■これにより、現在のトワイライトステイ事業から転換が可能な場合がある。

保育バウチャー(利用券)制の導入

(再)

■幼稚園による保育サービス(預かり保育等)や認可外保育施設による保育サービス、ベビーシッターの利用料金補助の一環としてバウチャーを利用者に配布する。

■企業(事業所)と認可保育所との連携が実現した後であれば、企業に対してインセンティブを与える形式でのものも検討することができる。

■保育所や幼稚園を非定型に利用する場合、保育士バンクを利用する場合などを対象とすることが考えられる。

 

3.良質なサービスの提供と保育サービスにかかわる人材を育てる      

<施策の方向性と考え方>

 多様な保育サービスが整備されることは、利用者の利便性が図られるとともに、自分の生活に合うサービスを組み合わせて利用できる可能性も生まれてくるなど、保育サービスが生活に身近になり、大変良いことです。しかし、質の悪い「安かろう、悪かろう」のサービスばかりが増えていくとしたら、それは決して良いことではありません。多様なサービスが整備されるということは、多様な主体が保育サービスに参加することであり、保育サービスの質を一定に保ったサービスを提供していくことは困難になるということを意味します。選択できる環境とは、サービスの質についても違いがあり、特徴が生かされていくことでありますから、一概に「同質のサービスが良い」とは言えないことも事実です。しかし、保育サービスは子どもたちの育ちに直接影響を与えるものであり、かかわり方によってはいかようにも変化していく可能性のあるのが子どもです。その意味においても、最低限確保されなければならない、子どもの最善の利益を配慮したサービス条件と環境が常に担保される仕組みを構築しておくことが大切になります。

 そのために、保育サービスを客観的に評価する制度が必要になります。国でも児童福祉施設のサービス基準、サービス評価を提示する動きがありますが、保育サービスに関しては一部の保育士協議会で試験的に提示されている段階です。今後は全国的な保育サービス基準が決められていくかもしれませんが、東京都版のガイドラインを設置し、多様な主体による保育サービスが常に利用者の評価によって判断されるようにしていくことも考えられます。また、利用者によるモニタリングを制度化し、定期的にウオッチャーやオンブズマンが報告していく仕組みを作ることも考えられます。

 良質なサービスを確保するために、不可欠なのは保育サービスにかかわる職員・関係者の技術・倫理・意欲の向上です。メニューがどれほど充実していても、要件的には利用できても、利用者の満足度が高まらなければそのサービスは評価されません。そして、それを担っていくのが保育士を始めとする保育者です。この場合の利用者とは保護者だけではないことに留意しなければなりません。保育サービスの質について議論するときの利用者は、保護者だけでなく、直接的な利用者としての「子ども自身」であることに配慮する必要があります。多様な保育サービスが整備される中において必要とされる人材とは、常に子どもに視点をおいた子どものための専門的サービスであるという基本的な目的を忘れず、親・家庭との距離を適度にとり、子育て期間中に起こり得る様々な問題や悩みに対して支援を行い、関連機関との連携をスムーズに行うことができる専門職員です。このような人材を育成しないまま、サービスの裾野を広げてしまうことは、危険なことではないでしょうか。

 また、東京都が専門職をどのようにとらえているのかを明確に示すことは、保育サービスにかかわるスタッフを多様にするために必要なことです。東京都が考える多様な保育サービスとは何をさし、どこに基準・条件があるのかを示していくことになります。このことにより、保育士を補助する保育士補助員などに子育て経験者を雇用することにも意義が出てくるのではないかと考えます。

 これらに加え、保育者養成や保育サービスの効果・影響についての調査研究を進め、基礎資料を整備することは、新しい時代の要請に合った保育者を継続的に養成していく基盤をとしても必要です。

 

<具体的事業案>

事 業 名
概        要
保育所評価システムの導入

保育所行政ウオッチャー・オンブズマンの導入(保育行政監視役)

□認可保育所によるサービス評価を利用者の視点及び子どもの最善の利益の視点から行うための仕組みを整備する。

□保育所ごと、地区ごとにモニターを任命し、地域への開放度など外部評価を交えたサービス評価を行い、保育所ごとに「最優良保育所」、「優良保育所」などの認定(格付評価)を行う。

□このことにより、保育所でのサービスが外部にさらされることになり、透明性・公平性が増す。また、保育所のサービス改善意欲を高めることになり、結果的にサービスの向上が図られる。

東京保育ガイドライン
□認可保育所以外の保育サービスの質を維持し高めていくことを目的として、「東京保育ガイドライン」を作成する。

□上記保育所評価システムは、保育に内容や職員、環境などの具体的項目についての評価をもとに、総合的に格付けをするという考え方であるのに対し、保育サービス全体の大きな指針を示すもの。

□住宅事情や交通事情など、都市部東京ならではの事情を踏まえた現実的なガイドラインとなるように配慮する。

リカレント教育の充実
■保育士の資格を取得したものの、現場での経験が不足している場合や、子育て経験をさらに深め専門職として資格取得を目指したいもの、また社会福祉士の資格を取得したいなど保育サービスにかかわる人材の再教育・生涯教育のための制度。

■これにより、保育サービス従事者のスキル向上とともに、保育サービス従事者として新たに取り組む人材を育成することができる。

保育士養成体系の見直し
■保育士養成の教育内容を見直し、幼稚園教諭資格と保育士資格が両方取得できるようにする。

■子ども家庭支援センター・地域子育て支援センター事業など、地域の子育て支援の拠点としてサービスにより専門的にかかわっていくことができるように、社会福祉士の取得を必須とした4年制保育士コースを創設する。

■既に保育士資格を取得した者も、継続して社会福祉士の資格を取得するコースに編入することができるなどのコース設定を行う。

家庭福祉員・ベビーシッターの現任研修
■家庭福祉員やベビーシッターなど専門性が要求される人材については、現任研修などの定期的・継続的な研修機会を設け、利用者のニーズや制度の変化など諸環境への理解を深め、常にそのサービス内容を高めることができる体制を整備する。
保育補助要員の育成
□保育士を補助する要員として、子育て経験者でファミリー・サポート・センターや社会福祉協議会のヘルパーなどの住民サービスに従事した経験のある者などを対象に、研修を行い、保育所での一時保育や緊急保育などのときに補助要員として区市町村に登録しておく制度等を実施する
調査研究の実施
■親以外の保育者による保育サービスが乳幼児に与える影響や長時間保育の問題など、保育サービスの整備や保育者の育成に必要な基礎的資料を充実させるための調査研究の実施。

 

4.子どもと親のウエルビーイングを支える                

<施策の方向性・考え方>

 保育サービスが多様化し、それを必要に応じて利用していくためには、適切な情報の提供と、相談体制の整備が必要になります。複数の似たようなサービスの中から、的確に自分に必要な保育サービスを選択できる力を誰もが備えているわけではありません。雑誌やテレビ、インターネットなど各種のメディアが存在する昨今、あふれる情報の洪水の中でかえって、不安を高めている親や家庭も多いのが実情です。サービスが多様化していく中で、とうたされ、良質なサービスだけが活用される健全な市場を育成しなければなりません。そのために必要なのは、信頼性ある情報の提供とアドバイスの体制でしょう。

 特に保育所が選択性を高めた契約システムへと転換した平成10年度以降、保育所の義務として情報提供が加わりましたが、これは「選ばれるため」ということでもあり、「選ぶに十分な根拠を提供するため」であり、そして「サービスを評価するため」でもあるのです。

 また、子育て家庭への相談は、子育て家庭の悩みや問題解決の重要な手段です。特に仕事をもちながら子育てをする家庭では、日中に市役所などが行う育児相談や健診日などに参加できないこともあり、基本的なサービスに対する情報が不足することもあります。また、母親が仕事をもたずに子どもを育てる家庭では、家の中に閉じこもりがちになり、かえって問題を大きくしてしまう場合もあります。どちらの子育て家庭にも情報提供と相談は大事なサービスであり、自分の生活にあったサービスを利用することにより、親自身の自信と安心を深め、子どもとの良好な関係をもつことができるようになるのではないかと考えます。これらの対象は保育所を利用する家庭だけではなく、幼稚園も含めたすべての就学前の子どもをもつ家庭であることは言うまでもありません。

 ネットワーク支援に関する事業も大事です。子育て家庭を継続的に支えていける地域のネットワークを構築していくとともに、相談援助のサービスが単発のその場かぎりにならないように継続的に地域でのフォローアップが可能な基盤を整備していくことです。そして、子育ては乳幼児期や就学前の時期だけではありません。社会人として自立していくまでの気の長い、長期的な取組です。保育サービスを多様化することをきっかけとして、子育ての長期的サポート体制について考えていく必要があるのではないでしょうか。

<具体的事業案>

事 業 名
概        要
情報

提供・情報公開

■保育所情報だけでなく、民間サービスや家庭福祉員のサービスも選択の対象として考えることができるように、地域内の保育サービス情報を網羅的に整理した情報冊子を作成する。

■氾濫する情報の中から的確に理解し、判断できる能力を高めるため、子育て家庭に対するサービス情報の講座(ごまかされてはいけない点、チェックする点など)を開催する。

子育てアドバイザー制度
■行政及び民間の各種サービス支援との情報面での連携を図るため、働きながら出産を控えた女性・男性に対し、情報提供・相談を行う「子育てアドバイザー事業」を実施する。

(例1)東京都版の2020テレホン

(例2)実績ある民間企業における既存の制度との連  携等

■子育てアドバイザー制度を導入したいという企業を募り、共同出資による第三者機関を設立、または実績ある団体・企業に助成し連携。

■医療機関、施設や保健所、保健センターなど、母子保健部門との連携による周産期からの支援、乳児期の子育てアドバイスを行うため、地域保健所や保健センター等による土日健診・夜間健診を推進する。

第4章 これからの子育て支援の基本的な視点

1 子育ては社会的な営み―子育て観の転換を

 これまで、子育て支援の方策を考えてきました。しかし、こうした施策が全部実現されたとしても、子育てには多くの課題が残ると思われます。そこで、もう少し視野を広げて、現在の子育ての問題を検討してみたいと思います。

 東京の少子化傾向が進展し、合計特殊出生率が1.0を割る日も近いと予想されています。こうした少子化の背景として、様々な要因が考えられますが、子どもをもつことが当然とされたこれまでの生き方に疑いの気持ちが強まったことが大きいように考えられます。

 長い間、われわれは家族や親族を頼りに暮らしてきました。親は献身的に子育てをする代わりに、自分の老後を子どもに見てもらうのが基本でした。そうした場合、自分の世話をしてもらう子どもを育てるのですから、子育ては家庭内であっても社会福祉的な意味合いをもつ重要な営みになります。家族が単位となり、これに親族が加わった形で、互いに支えあって生きていたわけです。

 しかし、現在の親世代は子どもの扶養をあてにせず、自分たちの力で老後を考えようとしています。いずれ、子どもは家を出て、自分たちの所帯をもつ。そうなると、子育てから将来保障という面が薄れます。現在の子育てでは、自分の老後を意識してというより、「夫婦の愛情の証として」とか「子どもがいる方が楽しい」という意味合いが強くなっています。そうなると、その人の考え方によって、子育てをする必然性が希薄になってきます。

 確かに、子どものことを考えて、出産を契機に専業主婦になり、自分を犠牲にして、子育てに専念しても、子育てが終わってからの社会復帰は難しいし、中年からの自分探しが迫られそうです。しかも、同世代の人が社会で活躍しているのに、自分は家で子どもにかかわる生活をしている。そういう状況のもとで子育てをしていると、子育ては苦労が多い割りに、報いられることが少なく、空しさがつきまとう営みという気持ちに陥りがちです。

 現代社会では、女性も性別的な役割期待から解放され、自己実現ができるようになりました。そうなると、高学歴化とともに、就労などの形で社会参加をする女性が多くなります。その結果、晩婚化や非婚化、あるいは、出産の時期を遅らせることが多くなります。そして、時には、子どもをもたない生活のスタイルなどが広まってきます。

 社会参加をする人たちにとって、20代後半は基盤を固める時期なので、もう少し出産を遅らせ、社会的な基礎を固めたいという気持ちになります。しかも、現状では、育児休業は1年間の無給の上に、零歳児保育所が不足するなど、保育所などの体制が完備されていない状況です。そして、育児休業明けの育児も心配です。そうなると、出産をちゅうちょする気持ちが強まります。

 こうした状況を視野におくと、現在は子育てをしにくい状況であると同時に、子育てに価値を見いだしにくい時代で、少子化は当然の帰結という感じがします。

 そこで、子育てについての発想を転換する必要がありそうです。生まれてくる子どもがその家の子どもであることは間違いありませんし、子育てが親権の行使も含めて私的な営みであることも否定できません。しかし、そうした子どもたちは、成人してから、われわれの次の社会の担い手になるのです。

 つまり、子育ては次世代を担う人を育てるという重要な意味をももつ社会的な営みでもあるのです。非婚化の生き方をする人や子どもをもたない生活を望む人たちの立場を十分に認める必要があります。しかし、そうした人たちも含めて、おとな世代が次世代の子育てを社会全体として支援する態度が必要になってきます。

子育てに社会的な営みという観点をもてるようになると、社会の中での子育ての重みが増してきます。具体的には、育児休業制度の3歳までの延長や休業期間の有給化、そして、育児専従者への保育手当の支給、児童手当の増額などが考慮されるようになると思われます。もちろん、男性が育児に積極的なかかわりをもつことも望まれます。そして、父親の育児参加を促すために、父親に短期間の育児休業を保障することも一つの試みとなります。

いずれにせよ、実際の子育てをするのは親である場合が多いと思いますが、親を孤立させることなく、親たちを社会的に支えて、子育ての重要性を高く評価していく。子育てに励みをもてるような社会的な風土づくりが望まれてなりません。

2 子どもの状況を配慮―発達に即した支援プログラムを

 改めてふれるまでもなく、母親をとりまく環境は大きく変わりました。身近な例をあげるなら、家庭生活です。一口に家事・育児といっても、変化が大きいのは家事です。家庭電化製品の普及によって、多くの女性は家事労働の重荷から解放されました。加えて、近年の外食産業の定着やスーパーマーケットやコンビニエンス・ストアーの定着は、家事の外部化を促進させています。その結果、現在の家庭は、かつての生活していく基盤で、自給自足の単位というような性格を希薄にして、成員が休息する場的な意味を深めています。

 もちろん、男女共同参画型社会への動きが進んで、女性たちが様々な領域に活動の場を見いだしています。建設現場で働く女性や女性の弁護士や医師、女性のタクシードライバー、女性の管理職などにまったく違和感をもたなくなっています。

 このように母親は21世紀の迫る現代社会に生きています。それに対し、ヒトとしての子どもは、昔も今と同じように生まれ、同じような成長のスタイルをたどります。21世紀が近づいたからといって、生まれてすぐの赤ん坊が発語をしたり、生後3か月の子どもが歩き始めたりすることはありません。

困ったことに、乳幼児は、生理的にはもちろんですが、心理的にも、親、あるいは親的な存在に依存しないと生きていけません。江戸時代の子育ての言い伝えに「ツのつく内は神の子」というのがあります。ヒトツ、フタツ、ミッツと、年齢にツがつく内は子どもはひよわだから、親の保護が必要という意味です。

 そうした子どもの状況は今も変わっていません。乳幼児の子育ては1対1の関係で、24時間体制で見守るのが基本です。保育所でも、1人の保育士が世話できるのは、3人以内が理想的だといわれます。基本的に省略化や合理化できないのが育児なのです。

 現在、多くの乳幼児は母親のもとで育てられていますが、大のおとなが1対1で、しかも、長期間にわたって世話をするのはなんとも効率が悪い話です。しかし、その効率の悪さが子育ての特性なのです。

 そう考えてくると、親は21世紀に身を置いているのに、子どもは古代と基本的に変わらない状況の下で生まれてくる。そうした親と子との状況のズレが大きく開いたのが現代の子育ての難しさだと思われます。

 そして、近年の子育て支援では、親の条件が優先され、子どもの状況への配慮に欠けた印象を受けます。具体例をあげるなら、2歳までの子どもは小規模で、心理的にも安心できる家庭的な雰囲気で育つことが望ましいといわれます。したがって、0歳児の保育時間の延長や夜間保育などは、親の立場から要請があるにしても、子どもの成長には望ましいといいにくいのです。そうした子どもの状況を踏まえ、その一方で、零歳児保育を必要とする親の条件を配慮する。そして、乳児に家庭的な環境をどう保障するかを検討していく態度が、現在の子育て支援には必要となります。

このように、親の望む条件と子どもが必要とする環境とが対立する場合が少なくありません。それだけに、昼間だけにせよ、親から離れる子どもを育てる時に、どういう形態が望ましいか、発達段階にそったプラン作りが必要となります。先にふれたように、乳幼児は心理的にも安定できる形の家庭的な環境が必要ですが、4、5歳児になると、仲間集団をもつことの意味が増してきます。一定規模の集団保育の方が子どもの成長にプラスになると思われます。そして、小学生では、集団での暮らしとともに、自分を取り戻せる自分だけの空間が必要になります。そうした形で、発達段階に沿った形の保育形態が検討されることが重要です。

3 ニーズの多様化を踏まえて―現行の制度に限界が

 既に繰り返してきたように、親、特に母親の生き方が多様化しているので、子育て支援に何を望むのかも多様化してきます。働く母親の場合、勤務時間などの条件によって、休日に働く人は休日の保育を必要としますし、夜間勤務の条件なら、保育時間の延長を越えて、夜間保育を求めることになります。しかも、休日や夜間の保育を望むのは決して例外的な職種でなく、看護婦や電話交換手など、身近にそうした保育の形を求めている人がいるのがわかります。さらに、乳幼児をかかえる母親の多くは、パートの形で仕事を再開することが多いのですが、そうなると、パートの条件によって、毎日でなく、週に3回の夜間保育を望むこともありそうです。

 さらに、これまでの子育て支援は、働く母親の育児と仕事との両立を支援するのを基本としてきました。しかし、専業主婦の状況であっても、親の介護や自分自身の啓発、そして、PTA活動やボランティアへ参加の折りなどに、一時保育を望む場合も増加しています。

 さらに、専業主婦の場合であっても、母親自身が子育てに不慣れな上に、近所に保育を助ける肉親や知人などがいないと、母親が孤立しがちです。その結果、育児上の簡単なことに不安を感じ、精神的な不安定さを招きがちです。これからの保育所には、子どもを預かるだけでなく、そうした育児相談的な機能も期待されるようになります。

 もちろん、こうした親の条件に、子どもの条件が加わります。例えば、発熱した子どもを預かる病院型の保育や心身に問題をかかえた子を預かる治療型の保育も必要となってきます。

 そう見てくると、親と子どもの多様さに見合うだけの保育の形が必要となってきます。しかも、夜間の保育や休日保育、一時保育のそれぞれが、当事者からすれば、切実な願いであることは間違いのないところです。そうはいっても、残念ながら、現行の保育システムで、すべての希望に添うのは困難のように思われます。

4 都が担うもの―支援システムの多様化

 このように、保育について、親たちが多様な願いをもっているのは確かですが、財政的にも人的にも限られた行政に、すべての実行を望むのは無理なことです。というより、子育てには私的な面が含まれていますので、子育て機能のすべてを行政に託すのが望ましいとは思われません。

そうなると、多様な需要の中から、1)行政が責任を負うものと2)第3セクタ−的な働きに期待されるもの、さらに、3)ボランティア的な活動が担うもの、そして、4)私的に解決するものとに分けて、対応を考えていくことが大事になります。需要の多様化に対応して、子育て支援システムも多様化する必要がありそうです。

 特に第3セクター的な施設は重要です。これは、私的にできることの範囲を越えた活動で、親たちが音頭をとって設置するところに特色があります。第3セクター方式ですと、公的な規制を受けることが少ないので、家庭的な規模の乳児保育所や親たちが設置する学童クラブなどが考えられます。

基本的に、保育サービスは区市町村の事業ですから、区市町村は、既存のサービスの状況を点検し、需要の動向を踏まえて、その地域なりの子育て支援プランを設定していくことが大事になると思われます。そうした子育て支援の実際は区市町村の働きに期待しなければなりません。その中で東京都が取り組むべきことは、どのようなことになるのでしょうか。

 第1章の「基本的考え方」において保育ニーズの考え方について5つの「ニーズ群」について説明してありますが、そのうちのいくつかのニーズについては、東京都のかかわり方によって、区市町村での取組内容に大きな差が生じるであろうことが予想されます。

例えば、第一ニーズ群として挙げた「保育に欠ける=保育ニーズ」として待機児童として公認されている層への対応については、区市町村が主体となって認可保育所の柔軟な運営と利用手続き等について工夫をしていくことになるでしょう。しかし第二から第五までのニーズ群への対応は、保育ニーズの定義内容によって大きく取組が変わってくることであり、その理解は東京都が何をニーズとしてとらえているのか、また、どの層への働きかけを中心に行おうとしているのかによって変わってくるでしょう。東京都の役割は、区市町村が従来の慣習や硬直的になった実施体制を変革し、ニーズに基づいた柔軟で利用しやすい保育サービスを提供・実施しやすい環境を整えることではないでしょうか。昨今、行政サービスの充実度によって住民は居住する自治体を選択し、転居したりするという行動が見られるようになりました。いつまでも横並びの施策を実施している姿勢は、必ずしも評価されなくなってきているのです。その気運を高め、地域の実情にあった自治体独自のサービスに取り組みやすい気運と契機を提供していくことも東京都に求められる役割ではないでしょうか。

そのほかに、都が担うものとしては、1)各地域の支援活動についての調整や情報提供、2)個人や区市町村では担いきれないもののうち、特に広域性の強いものや行政的に都の責任や権限の強いもの、3)子育て支援にかかわる人材の養成になると思われます。

この内、2)の広域性が強く、財政的に区市町村には負担が大きすぎる支援の例としては、発病時はむろんだが、病後の子どもを預かってくれる医療機関を併設させた保育所が考えられます。また、心身ともの障害をもった子どもを治療しつつ保育する治療保育施設も必要となります。既にそうした施設は作られていますが、利用者の立場を考えると、少なくとも10か所程度の設置と内容の充実が望まれます。

また、3)の人材養成はこれからの子育て支援の中枢となると見込まれるものです。特に多様な第3セクター的なサービスが提供するようになると、そうした保育にかかわる人材に一定のレベルの見識や力量が求められます。特に乳幼児期の保育には、基礎的な医学や生理学、栄養学や被服、乳幼児の心理、家族関係の理解などの知識の取得が求められます。それだけに、1)短大レベルの基礎資格と2)4年制大学レベルの中級資格、3)大学院レベルの上級資格に分け、都として独自に資格を認定することが大事になってきます。そうした中で、生涯学習の観点をもって、教員免許や看護婦資格をもつ人をリフレッシュする、あるいは、子育てが一段落した人の研修の道を開くなど、多様で計画的な子育てサポーターの育成が望まれます。

 もっとも、基礎資格は短大の幼稚園や保育関連の学科、中級は4年制大学の児童学科や看護学科などとの連携で資格取得が可能かと思われます。それと平行して、子ども未来財団などで、中級から上級にかけての講座を開講して、子育て支援の人材を育成すると同時に、子育てについての研究助成や情報提供を行うセンターとして機能させることも大事になると思われます。

5 重点的な提案―これだけは、実現したい

子育てへの願いを書いていると、夢がふくらみます、しかし、ここらで、現実に目を移しましょう。東京都は財政的な危機に陥っています。そのため、これまでなら簡単に実施できた計画でも、財政面で断念しなければならないことも少なくありません。

 そうはいっても、子育ては21世紀を担う人を育成する未来志向的なものです。それだけに、未来のために投資をする態度が望まれます。既に協議会としての施策の提言は行っていますが、その中の重点事業を改めてまとめると、以下のようになります。

  1. 保育サービス利用意識の改革を促す意識啓発活動を行う。
  2. 中小企業主を対象とした「子育てファミリーセミナー」を開催する。
  3. 家庭福祉員制度の見直しを行い、家庭型保育サービス事業を拡充
  4. する。
  5. 保育士バンク制度を実施する。
  6. 事業所外保育サービスを充実する。( employer sponsored保育企業優遇制度)
  7. 保育所評価システムの導入、保育所行政ウオッチャー・オンブズマン [保育行政監視役]の導入を図る。
  8. 東京都保育ガイドラインを作成する。
  9. 保育補助要員を育成する。

コラム(「子育てと仕事の両立」についての委員からのエッセイ)へ続く