東京都障害者への理解促進及び差別解消の推進に関する条例 目次  前文  第一章 総則(第一条から第六条)  第二章 障害を理由とする差別に関する相談及び紛争の防止又は解決のための体制等 第一節 障害を理由とする差別の禁止(第七条) 第二節 障害を理由とする差別に関する相談体制(第八条) 第三節 障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決のための体制(第九条から第十三条) 第四節 調整委員会(第十四条)  第三章 共生社会実現のための基本的施策(第十五条から第十八条)  第四章 雑則(第十九条、第二十条)  附則  平成十八年、国際連合において、全ての障害者によるあらゆる人権及び基本的自由の完全かつ平等な享有を促進し、保護し、及び確保すること並びに障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、障害者の権利に関する条約が採択された。  その後、我が国は、条約の締結に向けて、障害者基本法の改正、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律及び障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の制定等、国内法の整備を進め、平成二十六年、障害者の権利に関する条約を締結した。  しかしながら、今なお、障害及び障害者への誤解や偏見その他理解の不足により、障害者は、日常生活や社会生活の様々な場面において、障害を理由とする不当な差別的取扱いを受け、自立や社会参加が妨げられている。中でも、障害のある女性は、障害を理由とする差別と性に基づく差別という二重の差別を受ける場合がある。これら障害者が日常生活や社会生活で受ける差別や制限は、心身の機能の障害のみならず、社会における様々な障壁によって作り出されているのであって、障壁を取り除くことは社会全体の責任である。  多様性こそが都市としての発展の原動力であるとの認識の下、東京都は、障害及び障害者への都民の理解を深めるとともに、障害を理由とする不当な差別的取扱いを無くし、建設的な対話と合理的配慮の提供を通じ、社会的障壁の除去の取組を進めていかなければならない。  ここに、障害者の権利に関する条約、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律等の理念の下、東京に暮らし、東京を訪れる全ての人が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目指し、この条例を制定する。    第一章 総則 (目的) 第一条 この条例は、障害を理由とする差別の解消の推進に関し、基本理念を定め、東京都(以下「都」という。)、都民及び事業者の責務を明らかにするとともに、障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(平成二十五年法律第六十五号。以下「法」という。)第十四条に規定する相談及び紛争の防止又は解決のための体制の整備(以下「体制整備」という。)並びに法第十五条に規定する啓発活動(以下「啓発活動」という。)の実施に関し必要な事項等を定めることにより、障害を理由とする差別を解消し、もって共生社会の実現に寄与することを目的とする。 (定義) 第二条 この条例において次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。 一 障害者 身体障害、知的障害、発達障害を含む精神障害、難病その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう。 二 事業者 法第二条第七号に規定する事業者のうち、都の区域内において商業その他の事業を行う者をいう。 三 社会的障壁 法第二条第二号に規定する、障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう。 四 共生社会 障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会をいう。 五 障害の社会モデル 障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会的障壁と相対することによって生ずるものとする考え方をいう。 (基本理念) 第三条 障害を理由とする差別の解消は、次に掲げる事項を基本理念(以下「基本理念」という。)として推進するものとする。 一 全て都民は、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されること。 二 全て障害者は、社会を構成する一員として社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されること。 三 全て障害者は、可能な限り、言語(手話等を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。 四 全て障害者は、障害のある女性が障害及び性別による複合的な原因により特に困難な状況に置かれる場合等、その性別、年齢等による複合的な原因により特に困難な状況に置かれる場合においては、その状況に応じた適切な配慮がなされること。 五 障害を理由とする差別の解消は、障害及び障害者に対する誤解、偏見その他理解の不足の解消が重要であることに鑑み、多様な人々により地域社会が構成されているという基本認識の下に、全ての都民が相互理解を進め、障害、障害者及び障害の社会モデルに関する理解を深めることを基本として推進すること。  (都の責務) 第四条 都は、基本理念にのっとり、障害を理由とする差別を解消するため、必要な体制整備を図るものとする。 2 都は、基本理念にのっとり、障害、障害者及び障害の社会モデルについて、都民及び事業者の関心と理解を深め、適切に行動するために必要な啓発活動を行うものとする。 (都民及び事業者の責務) 第五条 都民及び事業者は、基本理念にのっとり、障害、障害者及び障害の社会モデルについて自ら積極的に関心と理解を深めるとともに、都が実施する障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策に協力するよう努めなければならない。 (区市町村との連携) 第六条 都は、体制整備及び啓発活動を実施するときは、特別区及び市町村(以下「区市町村」という。)との連携に努めなければならない。 2 都は、区市町村が体制整備及び啓発活動を実施するときは、情報の提供及び技術的助言その他必要な支援を行うよう努めなければならない。    第二章 障害を理由とする差別に関する相談及び紛争の防止又は解決のための体制等     第一節 障害を理由とする差別の禁止 (障害を理由とする差別の禁止) 第七条 都及び事業者は、その事務又は事業を行うに当たり、障害を理由として障害者でない者と不当な差別的取扱いをすることにより、障害者の権利利益を侵害してはならない。 2 都及び事業者は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明(知的障害、発達障害を含む精神障害等により本人による意思の表明が困難な場合には、障害者の家族、介助者等コミュニケーションを支援する者が本人を補佐して行う意思の表明を含む。)があった場合において、当該障害者と建設的な対話を行い、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢、障害の状態等に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。     第二節 障害を理由とする差別に関する相談体制 (広域支援相談員) 第八条 法第十四条の規定による相談に的確に応ずるため、広域支援相談員を置く。 2 広域支援相談員は、障害を理由とする差別の解消に関する知識及び経験を有する者のうちから、知事が任命する。 3 広域支援相談員は、次に掲げる職務を行う。  一 障害者及びその家族その他関係者並びに事業者からの障害を理由とする差別に関する相談に応じ、区市町村等と連携して、必要な助言、調査、情報の提供及び関係者間の調整を行うこと。  二 区市町村における障害を理由とする差別に関する相談の解決を支援するため、相互の連携を図るとともに、必要な助言、調査、情報の提供及び関係者間の調整を行うこと。  三 障害を理由とする差別に係る相談の情報の収集及び分析を行うこと。 4 広域支援相談員は、前項各号に掲げる職務を公正中立に行わなければならない。     第三節 障害を理由とする差別に関する紛争の防止又は解決のための体制 (あっせんの求め) 第九条 障害者並びにその家族及び後見人その他障害者を現に保護する者は、第七条各項の規定に違反する取扱いを受けたと認める場合で、第八条第三項の規定により相談を行い、当該相談について広域支援相談員が対応してもなおその解決が見込めないときは、知事に対し、紛争の解決のために必要なあっせんを求めることができる(以下「あっせんの求め」という。)。 2 前項の規定にかかわらず、次の各号のいずれかに該当する場合は、あっせんを求めることができない。 一 行政庁の処分又は職員の職務の執行に関する場合であって、他の法令等に基づく不服申立て又は苦情申立て等をすることができるとき。 二 障害者の雇用の促進等に関する法律(昭和三十五年法律第百二十三号)に規定する障害者に対する差別の禁止に該当するとき。 三 同一の事案について、過去に前項の規定によるあっせんの求めを行ったことがあるとき。 四 障害者の家族及び後見人その他障害者を現に保護する者が前項の規定によるあっせんの求めを行う場合において、当該あっせんの求めが当該障害者の意に反するとき。 (事実の調査) 第十条 知事は、前条第一項の規定によるあっせんの求めがあったときは、その職員(広域支援相談員を含む。この条において同じ。)に、当該あっせんの求めがあった事案(以下「紛争事案」という。)に係る事実を調査させるものとする。 2 紛争事案の当事者(前条第一項の規定によるあっせんの求めを行った者及び当該あっせんの求めにおいて第七条各項の規定に違反する取扱いを行ったとされた事業者をいう。以下同じ。)その他関係者(以下「関係者」という。)は、正当な理由がある場合を除き、前項の調査に協力しなければならない。 3 第一項の調査を行う職員は、その身分を示す証明書を携帯し、関係者の請求があったときは、これを提示しなければならない。第十一条第五項の規定による調査をする場合も、同様とする。 (あっせん) 第十一条 知事は、前条第一項の調査の結果に基づき、都民への影響が大きい事案であり、紛争事案の解決のために必要があると認められるときは、次項各号に該当する場合を除き、東京都障害を理由とする差別解消のための調整委員会(以下「調整委員会」という。)にあっせんを付託するものとする。 2 調整委員会は、前項の規定によるあっせんの付託があったときは、次に掲げる場合を除き、あっせんを行うものとする。  一 紛争事案について、第九条第一項の規定に基づきあっせんの求めを行った者が、自らあっせんの求めを取り下げる意思を示した場合等、あっせんの必要がないと認めるとき。  二 紛争事案について、法第十四条の規定に基づき国又は他の地方公共団体が現に紛争の防止又は解決を図っている場合等、あっせんを行うことが適当でないと認めるとき。 3 調整委員会は、紛争事案の解決のために必要があると認めるときは、当該紛争事案の当事者及び関係者に対し、必要な調査を行うことができる。 4 第十条第三項前段の規定は、前項の調査について準用する。この場合において、同条第三項中「第一項」とあるのは「第十一条第三項」と、「職員」とあるのは「調整委員会の委員」と読み替えるものとする。 5 調整委員会は、必要があると認めるときは、知事に第三項の調査の全部又は一部を行わせることができる。この場合において、知事は、第十条第一項に規定する職員に当該調査を行わせるものとする。 6 紛争事案の当事者及び関係者は、正当な理由がある場合を除き、第三項の規定による調査(前項の規定により知事がその全部又は一部を行う場合を含む。次条において同じ。)に協力しなければならない。 7 調整委員会は、紛争事案の解決のため必要なあっせん案を作成し、これを紛争事案の当事者に提示するものとする。 8 あっせんは、次のいずれかに該当したときは、終了する。  一 あっせんにより紛争事案が解決したとき。  二 あっせんによっては紛争事案の解決の見込みがないと認めるとき。 9 調整委員会は、第二項各号に該当する場合としてあっせんを行わないこととしたとき又は前項の規定によりあっせんを終了したときは、その旨を知事に報告するものとする。 (勧告) 第十二条 調整委員会は、知事に対し、次の各号のいずれかに該当する場合は、事業者に対して、障害を理由とする差別の解消に必要な措置を講ずるよう勧告を求めることができる。  一 前条第二項の規定によりあっせんを行った場合において、当該事業者が、正当な理由なく、あっせん案を受諾せず、又は受諾したあっせん案に従わず、これを放置することが障害を理由とする差別の解消の推進に著しい支障があると認められるとき。 二 当該事業者が、正当な理由なく前条第三項の調査を拒み、妨げ、又は忌避したとき。  三 前条第三項の調査に対し、当該事業者が虚偽の資料を提出し、又は虚偽の説明を行ったとき。 2 知事は、前項の規定による勧告の求めがあった場合において、必要があると認めるときは、当該事業者に対して、障害を理由とする差別の解消に必要な措置を講ずるよう勧告することができる。 (公表) 第十三条 知事は、前条第二項の規定による勧告を受けた事業者が、正当な理由なく当該勧告に従わないときは、その旨を公表することができる。 2 知事は、前項の規定による公表に当たっては、あらかじめ、当該勧告を受けた事業者に対し、公表をしようとする旨を通知し、当該事業者又はその代理人の出席を求め、意見を述べ、証拠を提示する機会を与えなければならない。 3 知事は、第一項の規定による公表に当たっては、あらかじめ、第九条第一項の規定によるあっせんの求めを行った者及び調整委員会の意見を聴くことができる。     第四節 調整委員会 (調整委員会)  第十四条 あっせんの求めがあった事案の解決を図るため、公正中立な調査審議及びあっせんを行う知事の附属機関として、調整委員会を置く。 2 調整委員会は、紛争事案の公正中立な調査審議及びあっせんを行うことができ、障害者の権利擁護について優れた識見を有する者のうちから、知事が任命する十五名以内の委員で組織する。 3 委員の任期は二年とし、補欠の委員の任期は、前任者の在任期間とする。ただし、再任を妨げない。 4 委員は、非常勤とする。 5 委員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も同様とする。 6 第二項から前項までに定めるもののほか、調整委員会の組織及び運営に関し必要な事項は、知事が定める。   第三章 共生社会実現のための基本的施策 (情報保障の推進) 第十五条 都は、障害者が円滑に情報を取得し、意思疎通ができるようになることは、障害者だけでなく都民及び事業者にとっても必要であるという認識に基づき、手話、筆談、点字、拡大文字、読み上げ、分かりやすい表現その他障害者が分かりやすく利用しやすい方法(以下「障害者に配慮した方法」という。)による情報の提供が普及するよう必要な施策を講ずるものとする。 2 都は、関係機関と連携し、意思疎通を仲介する者の養成のために必要な施策を講ずるものとする。 3 都は、障害者が都政に関する情報を速やかに得ることができるよう、可能な限り、障害者に配慮した方法によって情報の提供を行うものとする。 (言語としての手話の普及) 第十六条 都は、独自の文法を持つ手話は一つの言語であるという認識に基づき、都民及び事業者において言語としての手話の認識を広げるとともに、手話の利用が普及するよう必要な施策を講ずるものとする。 (教育の推進) 第十七条 都は、障害、障害者及び障害の社会モデルに関する正しい知識を持つための教育が行われるよう、情報の提供その他必要な施策を講ずるものとする。 (事業者による取組の支援) 第十八条 都は、事業者による共生社会の実現に向けた自主的な取組を促進するため、先進事例の収集及び公表その他の情報の提供並びに技術的助言並びに障害者と事業者との連携の促進その他必要な施策を講ずるものとする。   第四章 雑則 (委任) 第十九条 この条例の施行に関し必要な事項は、東京都規則で定める。 (罰則) 第二十条 第十四条第五項の規定に違反して秘密を漏らした者は、一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。   附 則 1 この条例は、平成三十年十月一日から施行する。 2 都は、社会環境の変化及びこの条例の規定の施行の状況その他障害を理由とする差別の解消の推進の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この条例の規定について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。