(表紙 中央に人々の笑顔のイラストがあります) 障害者差別解消法 合理的配慮等の好事例集 (様々な場面における相談事例から) 東京都福祉保健局 (文字の左側に東京都のイチョウのマーク、右側に「すけだちくん」のイラストがあります) はじめに  我が国では、「障害者の権利に関する条約」(以下「障害者権利条約」といいます。)を批准するに当たり、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の現実に資することを目的として、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(平成25年法律第65号。以下「障害者差別解消法」といいます。)が平成28年4月に施行されました。  そして、東京都では、2020年東京オリンピック パラリンピック競技大会を見据え、都民及び事業者が障害者への理解を深め、障害者差別を解消するための取組を進めることで、共生社会、ダイバーシティの実現を目指すことを目的に、「障害者への理解促進及び差別解消のための条例制定に係る検討部会」を設置し、条例の制定を目指しています。  この事例集は、共生社会、ダイバーシティの実現に向け、「合理的配慮の提供」や、「不当な差別的取扱いの禁止」について、都民や事業者の理解を深め、様々な取組を進めるための一助となるよう、取りまとめました。その取組をとおし、障害者への差別をなくすことを目的としています。 事例集の活用に当たって  事例集に掲載している事例は、東京都各局、都内各区市町村や関係機関、障害者団体等から寄せられたものを掲載しております。提供いただいた方にご迷惑が掛からないように、一部改編した上で掲載しています。  なお、合理的配慮は、障害のある方の特性や事業者の事業規模、その状況に応じて提供されるものであり、多様で個別性が高いものです。そのため、本事例集に掲載されているものは、あくまで例示であることをご了解ください。    頁の下の方に「すけだちくん」のイラストがあります。  (すけだちくんは、「一緒に、すけだちいたそう」と言っています。)  「すけだちくん」は共生社会の実現に向けた障害者理解促進キャラクターです。  「一緒にすけだちいたそう。」をキャッチフレーズに障害のある方が困っていたら、ちょっとした配慮や手助けを呼びかけます。 目次 第1 障害者差別解消法とは 1ページ 1 法の概要 2 不当な差別的取扱いとは 3 合理的配慮の提供とは 4 環境の整備とは 第2 合理的配慮等の提供等事例 2ページから 各ページの事例について、一覧表で示しています。 上段、左から右に 場面、ページ、場所、事例のテーマ 留意点、障害種別 と記されています。 場面の欄は、上から下に 1 サービス(買い物、飲食店等)、2 医療 福祉、3 公共交通、4 教育、5 雇用、6 行政、7 災害時 となっています。 以下、1 サービスから順に表の内容を表示します。 1 サービス(買い物、飲食店等) 2ページ (場所)商業施設、(事例のテーマ 留意点)過重な負担かどうかの判断、環境の整備によるコスト削減、(障害種別)視覚障害 4ページ (場所)小売店、(事例のテーマ 留意点)障害特性の個別性、サービス事業者での取組、(障害種別)知的障害 6ページ (場所)運動施設、(事例のテーマ 留意点)環境の整備による情報保障、(障害種別)聴覚障害 7ページ (場所)飲食店等、(事例のテーマ 留意点)難しく考えずにできる合理的配慮の提供、(障害種別)身体障害 8ページ (場所)不動産仲介店、(事例のテーマ 留意点)分かりやすく伝えるための合理的配慮の提供、(障害種別)精神障害 2 医療、福祉 10ページ (場所)病院、(事例のテーマ 留意点)体制づくりによる合理的配慮の提供、(障害種別)身体障害 12ページ (場所)福祉施設、(事例のテーマ 留意点)合理的配慮の提供時、周りの人々からの理解の重要性、(障害種別)内部障害 3 公共交通 13ページ (場所)鉄道駅、(事例のテーマ 留意点)女性障害者への配慮の視点、(障害種別)視覚障害 4 教育 15ページ (場所)小中学校、(事例のテーマ 留意点)保護者への合理的配慮の提供、(障害種別)視覚障害 5 雇用 16ページ (場所)職場、(事例のテーマ 留意点)第三者と共に行う建設的対話、(障害種別)高次脳機能障害 6 行政 17ページ (場所)公共施設、(事例のテーマ 留意点)合理的配慮の方法の個別性 多様性、(障害種別)身体障害 18ページ (場所)児童向け講座、(事例のテーマ 留意点)事前の申出による障害特性に応じた柔軟な対応、発達障害 7 災害時 19ページ (場所)災害への備え、(事例のテーマ 留意点)災害時の情報保障、(障害種別)聴覚障害 第3 参考情報 20ページ (1ページ) 第1 障害者差別解消法とは 1 法の概要 イ) 障害のある方への差別をなくすことで、障害のある人もない人も共に生きる社会をつくることを目指しています。 ロ) 障害者差別解消法において、障害者とは「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機能の障害(以下「障害」と総称する。)がある者であって、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」としています。(※障害者基本法に同じ) ハ) 民間事業者や行政機関等に対し、「不当な差別的取扱い」を禁止しています。また「合理的配慮の提供」を求め(行政機関等は法的義務、民間事業者は努力義務)、それを支える取組として「環境の整備」に努めるよう定められています。 2 不当な差別的取扱いとは イ) 障害を理由として、正当な理由なくサービスの提供を拒否したり、サービスの場所や時間帯を制限したり、障害のない方にはつけない条件を付けたりするような行為をいいます。 3 合理的配慮の提供とは イ) 障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合に、その実施に伴う負担が過重でないときは、必要かつ合理的な対応をすることをいいます。 ロ) 過重な負担については、個別の事案ごとに、行政機関等及び民間事業者が、事務、事業への影響の程度を考慮し、場面や状況に応じて総合的、客観的に判断し、障害者に説明することが必要です。 ハ) 合理的配慮の方法は一つではなく、申出どおりの対応が難しい場合でも、建設的対話を通じて、柔軟に対応することが重要です。 ※「改正障害者雇用促進法」では、事業主に対し、障害のある人の雇用について、不当な差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供を規定しています。 4 環境の整備とは イ) 合理的配慮が必要な障害者の利用が多く見込まれたり、障害者との関係が長期にわたる場合等において、いわゆるバリアフリー化や、情報保障のための機器の導入、職員研修などを行うことをいいます。 (2ページ) 第2 合理的配慮等の提供等事例  ここからは、合理的配慮等の事例を生活場面別に掲載していきます。障害のある方が生活の中でした申出、好事例となった合理的配慮、その事例のポイントと関連したアドバイスについてまとめています。事例をとおして合理的配慮の提供について理解を深め、障害者が社会的障壁の除去を必要としているとき、どのように対応したらよいのか考えていきましょう。 1 サービス(買い物、飲食店等) (1)商業施設での事例 障害者からの申出(視覚障害) 「施設内の階段が木目調で段差が分かりにくく、危険でした。手すりはついていましたが、照明も暗くかなり注意が必要です。弱視のため降りるのが怖いので、少し配慮してほしいです。」  このような相談を受けた施設スタッフが、この日は、危険のないように同行しながらご案内をした。今後、同様の相談があることを想定し、施設内で何かできないか検討することにした。 (3ページ) 事業者からの合理的配慮の提供 施設スタッフ 『この日は、同行して館内案内を行いましたが、段差部分がはっきりと区別できるように、段差の角部分に目印をつけることにしました。段差の角部分にラインを引き、境い目がはっきりするようにしたおかげで、個別にご案内をしなくても、スムーズに利用できる方が増えたように思います。』 ワンポイントアドバイス 今回の事例は、階段にて同行してご案内をするという合理的配慮の提供と、段差部分を分かりやすくするためにラインを引くという環境の整備が行われた事例といえます。 障害者から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合、その実施に伴う負担が過重でないときは、事業者は合理的配慮の提供に努めなければなりません。過重な負担かどうかの判断は、(1)事務、事業への影響の程度、(2)実現可能性の程度、(3)費用の程度、(4)事務、事業規模、(5)財政、財務状況を考慮するとされています。 事業者が様々な相談を受けそれらに対応する際、コストについては懸念事項になる場合もあるかと思います。 今回のような環境の整備をすることで、個別に案内する人員を割くことなく、対応ができることもあります。環境の整備をすることで中長期的なコスト削減、効率化が図れることは、合理的配慮の提供を考える上でポイントとなります。 (イラストのすけだちくんが、「過重な負担に当たると判断した場合、その理由を説明し、理解を得るよう努めることが望まれているよ」と言っています。) (4ページ) (2)小売店での事例 障害者からの申出(知的障害) 「愛の手帳(東京都療育手帳)3度を所持している私の家族が、スーパーで買い物をした際、今まで使用していたポイントカードから新しいカードへの変更手続ができず、更新しないまま帰ってきました。  本人は、お金を持って買い物にいくことはできますが、一人で名前、連絡先などを書いたりする手続ができません。本人に手続ができるよう配慮をお願いすることはできないのでしょうか。」  この相談を受けた店舗スタッフは、本部へ連絡をし、どのような対応ができるか検討することにした。 事業者からの合理的配慮の提供 店舗スタッフ 『ご連絡を頂いた後のご来店時、ゆっくりと話す、わかりやすい言葉に置き換える、ルビをふるなどの対応を、まずは行い、更新手続についてご理解いただきました。今回は、ご家族の方からもポイントカードの更新について本人の意思が確認できたため、 代筆によって更新を完了しました。今回の件を受けて、本社人事部にも連絡をし、柔軟な対応を社内全体へ周知していくことになりました。』 (5ページ) ワンポイントアドバイス 分かりやすく伝えるため、ルビを振ったり、言葉を置き換えるという合理的配慮が行われた事例です。一人で買い物ができても、障害特性によっては住所や名前が書けないという方がいらっしゃいます。外見からでは、障害が分かりにくいことがあります。そのようなことは、知的障害のほかにも精神障害や難病でも同様のことがいえます。一人ひとり、できること、できないことが違うという認識を持ち、分かりやすく対応することが大切です。  もう一つ行われた合理的配慮として代筆がありますが、今回はポイントカードの更新について本人の意思が確認できたため、対応が可能でした。ただし、契約など、事業者側が代筆することが適切でない場合もあります。代筆の対応はお店以外にも、行政機関や銀行の窓口でも行っていますが、同様のことがいえます。代筆はご本人の意思を確認の上、行われるものであり、注意が必要です。  また、今回の事例の場面は、スーパーマーケットでした。小売店などの事業者では、新人研修にて障害の疑似体験をして障害理解を深めたり、手続を分かりやすく伝えるための「絵などによる説明ボード」を用意するなどの取組が進められています。そうした取組が身近な地域で進められていることは、誰もが生活しやすい社会の実現への第一歩といえます。 (イラストのすけだちくんが、「分かりやすく伝える!それも合理的配慮の提供だよ」と言っています。 (6ページ) (3)運動施設での事例 障害者からの申出(聴覚障害) 「聴覚障害のある娘と、室内プールに行った時のことです。更衣室からプールサイドまでの経路が分かりにくく、娘一人ではプールサイドまで、とてもたどり着けそうにありませんでした。娘が一人で行った時に、配慮をお願いしたいです。」  相談を受けた事業者は、更衣室からプールサイドまでの経路及び案内板の説明をご本人と父に行うことにした。   事業者からの合理的配慮の提供 プールのスタッフ 『お二人で来館された際、スタッフから館内経路や施設についてご案内を行いました。案内板が分かりにくいというご指摘を頂きましたので、案内板についても見直しを行い、より分かりやすい案内板を作成しました。  加えて、利用時に筆談用ホワイトボードの持込みを希望されたため、持込み許可をしているサイズを超えていましたが、どのスタッフが対応しても持ち込んでいただけるようスタッフで共有し合いました。』 ワンポイントアドバイス  今回のような案内板の見直しは環境の整備といえます。聴覚障害のある方は、音からの情報を得ることが困難であるため、音以外での情報が必要です。音以外の情報をきちんと提供する案内板の見直しは、情報保障の視点から重要だといえます。  この事例は、環境の整備に加え、ホワイトボードの持込み許可というコミュニケーションへの合理的配慮についても検討された事例です。  こうした検討は、障害の有無にかかわらず、誰でも使いやすい施設、利用しやすい店舗などを考えていく上で必要な、参考になる事例であるといえます。 (7ページ) (4)飲食店等での事例 障害者からの申出(身体障害) 「カラオケ店に車椅子使用者2人、車椅子を使用していない2人の合計4人で行きました。4人で行ったので最大5人程度の部屋に案内されました。しかし、テーブルが大きく、車椅子が入るスペースがありませんでした。もう少し広い部屋へ通してもらうようお願いできますか。」  この方は、案内された部屋での利用を開始する前に、もう少し大きな部屋に通してもらえないか、店舗受付で提案をした。 事業者からの合理的配慮の提供 店舗スタッフ 『もう少し広めの部屋をお願いされたので、空いていた広めのパーティールームをご案内しました。 ご案内の際、車椅子をご使用の方がいらっしゃったため、ご希望を確認して、中のテーブルや椅子を端に寄せておきました。』 ワンポイントアドバイス  この事例は、合理的配慮は難しく考えずに提供できることを示す事例といえます。広い部屋に案内し、テーブルや椅子を寄せておくことで、障害のある方に気持ち良く利用していただけるのであれば、事業者にとって、実施に伴う負担は少ないのではないかと思います。  混雑時や繁忙期など、今回のような対応ができない場面も想定されます。そのような場面では、どの部屋なら現時点で案内できるか、お待ちいただいた上で広い部屋を使われるのがよいのか、といった対話がなされることが望ましいと思います。このように対話をすることは、障害のない方に対応する場合と同じなのではないでしょうか。この視点からも、合理的配慮は難しく考えずに提供できることを示す事例といえそうです。 (8ページ) (5)不動産仲介店での事例 障害者からの申出(精神障害) 「転宅のためアパートの契約をしたいのですが、音に敏感なため、人がたくさんいる店内が苦手です。何か配慮をお願いできますか。」  事業者は申出を受け、物件の紹介の際、店内で何か配慮ができないか検討することにした。  加えて、話の中で、この方は、契約の際の重要事項説明を一人で聞くことに不安を持っていることが分かった。   事業者からの合理的配慮の提供 不動産仲介業者 『ご本人からの申出を受けて、来店の際は、店内奥にある個室で対応することにし、お話に集中していただけるようにしました。また、契約の際は、お一人で不安とのことでしたので、ご本人の希望で、日頃から相談しているという相談支援事業所の相談員に同席いただくことになりました。ご本人にも安心していただいた上で、契約に至ることができたと思います。その後は、転宅先で落ち着いた生活を継続されています。』 (9ページ) ワンポイントアドバイス  この事例では、不動産仲介業者がご本人からの申出により、店内奥の個室で対応するという合理的配慮の提供が行われました。契約までのやり取りを、分かりやすく伝えるための合理的配慮の提供といえます。国土交通省の対応指針では、不動産仲介業者に求められる合理的配慮の提供として、「障害者の状況に応じて、ゆっくり話す、手書き文字、筆談を行う、分かりやすい表現に置き換える等、相手に合わせた方法での会話を行う」ことや「種々の手続きにおいて、障害者の求めに応じて、文章を読み上げたり、書類の作成時に書きやすいように手を添える」ことが示されています。  今回の事例において、相談支援事業所の相談員が同行したことは、ご本人の不安に寄り添うための支援であり、契約に至るために、必ず要するということでは当然ありません。同席をする際は、ご本人の希望があった上で、ということが前提で行われるべきといえます。相談先は、相談支援事業所の相談員に限らず、地域活動支援センター、保健所、身近な相談できる家族等が挙げられます。  また、前述の対応指針では、不動産仲介業者等が障害者の障害の状況等を確認する場合、「合理的配慮を提供等するために、必要な範囲で、プライバシーに配慮しつつ、障害者に障害の状況等を確認する。」と示されています。今回は、話の中で不動産仲介業者が自然に相談員の支援を受けていることを理解しましたが、あくまでも、必要な範囲で聞き取りを行うことは留意したい点です。  今回の事例では、不動産仲介業者が障害について理解を示し、柔軟に対応を行っています。こうした合理的配慮の提供が行われていくには、事業者の障害理解が必要であることは、改めてお伝えしたい点です。  また、不動産関係の場面で様々な取組が進められており、各区市町村では、障害者が転宅等で困難を抱えないように相談窓口を設置しているところがあります。(障害者に限らず、高齢者なども対象にしている場合があります。)また、そうした方の住み替え相談に理解のある不動産仲介業者の店舗を「住み替え推進協力店」としていく取組もあります。このように様々な分野の事業者が協力をしながら、地域で生活していくためのネットワーク作りが望まれています。 (10ページ) 2 医療、福祉 (1)病院での事例 障害者からの申出(身体障害) 「私は足に障害があり、杖を使っています。病院では、総合窓口で受付や会計する際、その度移動しなければなりません。どうしても窓口に行くまで時間がかかってしまいます。私自身も行動が遅いことにイライラしてしまいますし、周りの患者さんたちにも迷惑をかけているのではと気になります。病院に行くことがとても負担に感じてしまいます。」  この方は、病院の受付でこの話をした。その話を聞いた職員は、上司に報告をし、呼び出し方法の工夫や情報共有について検討することになった。   事業者からの合理的配慮の提供 病院スタッフ 『この患者様については呼出しの際、アナウンスとともに待合室の椅子のところへ受付職員がお伺いし、要件をお伝えしています。必要に応じて書類などをお持ちするようにしました。加えて、総合窓口職員や看護師が閲覧可能な院内情報システムに「歩行が困難な方」と記入しておくことで共有を図りました。  この患者様に限らず何度も呼び出すことを防ぐため、院内情報システムで「歩行が困難な方」「車椅子を利用される方」など記載することで情報を共有し、必要に応じて職員が患者様の所へお伺いするようマニュアルの変更をしました。』 (11ページ) ワンポイントアドバイス  この事例では、受付での呼出しの際、職員が患者の元へお伺いする合理的配慮の提供と、マニュアルを変更するという環境の整備が行われています。職員がお伺いすることで、結果として診察等がスムーズに進むことが予想されます。合理的配慮の提供をすることで事業者側にとっても、良い結果をもたらす事例といえます。  今回の事例のほか、各医療機関では待合室に経験豊富な元看護師を配置して、全体を常時見守りつつ迅速に対応できる体制を整えたり、障害者への適切な支援方法について研修を行う取組も進められています。また、待合室に優先席を確保するという病院もあります。優先席の確保は、病院に限らず、店舗やホール、劇場などでも応用できる環境の整備といえます。  上記のような対応が可能な場合ばかりでないと思いますが、職員一人ひとりの個人での合理的配慮だけでなく、組織的な体制作りが望まれます。 (イラストのすけだちくんが、「マニュアルの変更などのソフト面も環境の整備に含まれるよ」と言っています。) (12ページ) (2)福祉施設での事例 障害者からの申出(内部障害) 「私は内部障害(ストーマ造設)があります。自宅でも入浴はできますが、時間的にも体力的にも負担が大きく、デイサービスを利用した通所施設での入浴サービスを定期的に利用しています。介護者の方々に見られるのは致し方ないのですが、他の利用者に見られたくないです。何とか配慮できませんか。」  このような提案を受けた施設職員は、上司に相談をした。対応を検討するためケースカンファレンスを実施することになった。 事業者からの合理的配慮の提供 施設スタッフ 『通常の入浴時間とは違う時間帯に、他の利用者とは別に入浴してもらうことにしました。しかし、他の利用者からなぜ時間外に入浴しているのかなど言われてしまい、ご本人が不快に思ってしまうということがありました。そこで、ご本人には、入浴開始時間が遅くなったときには、早めに切り上げるなどをお願いし、他の利用者には、職員から事情を説明して理解を求めました。今は問題なく、ご利用いただいています。』 ワンポイントアドバイス  合理的配慮を提供する際、「特別扱い」と周りの方々から思われないよう、説明をすることはとても重要なことです。病院で診察の順番を入れ替えたり、行政機関の窓口にて別室対応する際など、必要に応じて他の方への説明を行うことも、合理的配慮の提供の一部といえるかもしれません。  また、周りの人々、つまり私たち一人ひとりが、そうした合理的配慮の提供へ理解を示すことが、重要な要素であることはいうまでもありません。  ※ストーマとは(stoma、ストマとも):消化管や尿路の疾患などにより、腹部に便又は尿を排泄するために造設された排泄口のこと。 ストーマを持つ人をオストメイトと呼ぶ。 大きく分けて消化管ストーマと尿路ストーマがある。 消化管ストーマは人工肛門、尿路ストーマは人工膀胱とも呼ばれている。 (13ページ) 3 公共交通 (1)鉄道駅での事例 障害者からの申出(視覚障害) 「私は視覚障害があります。普段使い慣れていないA駅を使うことになりました。駅構内のガイドをA駅窓口でお願いしました。」  この相談を受けた駅業務員は、次のような対応を行った。 事業者からの合理的配慮の提供 駅業務員 『視覚障害のある方のご案内はどの駅員でも対応できるようにしていますが、視覚障害のある女性からのお申出だったので、女性の駅員がご案内をしました。お手洗いなどのご案内では男性に言いにくいこともあると、お客様からは感謝されました。』 (イラストのすけだちくんが、「障害のある女性への配慮は重要な視点だね」と言っています。) (14ページ) ワンポイントアドバイス  今回の事例のように、鉄道会社では、女性のお客様をガイドする際、女性の駅員が対応するようにしているところもあります。女性で障害のある方の場合、より細やかな配慮が必要となる場合があります。今回の事例では、駅構内の案内という合理的配慮の提供の際、障害者への合理的配慮に加え、女性に対しての配慮も合わせて行われたものです。  障害のある女性は、障害者であると同時に女性です。そうした同時に複数の立場を生きる個人が被る、差別経験を捉える言葉として「複合差別」という言葉があります。家庭や学校、職場、医療を受けるときなど、日常生活のさまざまな場面で、障害のある女性は複合差別を経験する場合があります。  女性に限らず、子供や貧困など、困難が複合していることに焦点を当て、取り組む視点も必要です。この事例は、そうした問題を考えるきっかけになりそうです。  また、今回の事例は鉄道駅での事例でした。様々な取組が進められる中、視覚障害者の転落事故という心の痛む事故がゼロではありません。視覚障害者だけでなく、パーキンソン病や筋無力症等、難病により歩行が困難な方もホームで転倒するなどの状況もあります。環境の整備のためホームドアの設置は各駅にて進められていますが、すべての駅で設置されているわけではありません。そのため、人的な支援がやはり必要です。  困っている人を見かけたら、周りの一人ひとりが声をかけるなどの行動が求められています。 ヘルプマークを知っていますか  東京都では配慮を必要としている方のための「ヘルプマーク」の普及に取り組んでいます。 【ヘルプマークとは】  援助や配慮を必要としている方々が周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることができるマークです。(例:義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、妊娠初期の方など)  ヘルプマークを身に着けた方を見かけたら、電車、バス内で席をゆずる、困っているようであれば声をかける等、思いやりのある行動をお願いします。 (15ページ) 4 教育 (1)小中学校での事例 障害者からの申出(視覚障害) 「中学生と小学生の母親で全盲です。学校からの各種プリントは、紙のものは見ることができません。家族に読んでもらうだけでは、時間の都合などで読めないことも多々ありますし、主体的に自分で読むことも親として当然のことなので、配慮をお願いしたいです。」  この保護者は、担任の先生に直接相談をした。そこで、全盲であるため、視覚以外で情報を得る必要があることを説明し、保護者が持っているパソコンにあるソフトで音声読み上げができるよう、資料をメール送付してほしいと提案した。担任の先生は、個別の対応をしてよいか、学校から保護者へメールをしてよいか、判断しかねた。校長先生に相談をし、話し合いの場を設けた。 学校からの合理的配慮の提供 教員 『校長先生も含めた話し合いの場で、学校から保護者へメールを送付することによって対応できることを確認しました。その後、学校からの資料はメールで配信しています。資料は元々、パソコンなどで作成されたものが多く、メールでのやり取りがスムーズにできています。』 ワンポイントアドバイス  この事例では、資料をデータで送付するという合理的配慮の提供が行われました。「視覚障害といえば点字」と合理的配慮を考えがちですが、現在は、IT技術の向上により、簡便な方法で情報提供できる場合もあります。また、視覚障害者すべてが点字を利用している訳ではありません。弱視であれば、拡大文字や視覚補助具等で読むことができる場合もあるなど、一人ひとりに合った情報保障のための合理的配慮の提供が必要です。  今回は、障害のある児童、生徒でなく、障害のある保護者へ合理的配慮の提供が行われました。教育場面での合理的配慮の提供が、学校内での教育活動のみでないことは、今後考えたい視点といえます。 (16ページ) 5 雇用 (1)職場での事例 障害者からの申出(高次脳機能障害) 「私は高次脳機能障害があり、一度に多くのことを理解して行動することが苦手です。仕事を行う際の配慮として、仕事の内容を一つずつ簡潔に指示すること、複雑な指示内容は、メモ等で示すこと、社内ルールを統一することをお願いしたいです。」  この方は、相談支援事業所の相談員に話をした。障害者、相談支援事業所の相談員、事業者が一緒になって必要な配慮の具体策について話し合いの場を設けることにした。 話し合いの場 (障害者、事業者、相談支援事業所の相談員) 事業者からの合理的配慮の提供 職場の上司 『相談支援事業所の相談員が配慮してもらいたいことについて確認した上で、話し合いに同席をしてくれました。 社内ルールの統一はすぐにはできませんでしたが、一度に多くの指示を出さず、メモで出すようにすることで、混乱はなくなりました。』 ワンポイントアドバイス  高次脳機能障害とは、交通事故や脳血管障害などの病気により、脳にダメージを受けることで生じる認知や行動の障害です。具体的には、すぐに忘れてしまったり新しいことを記憶することが苦手な「記憶障害」、集中力が続かないなどの「注意障害」、こだわりが強く現れたり、イライラしたり興奮しやすくなる「社会的行動障害」等が現れます。症状の現れ方は人それぞれです。  同じ障害種別であっても、それぞれ得意なことや不得意なことは違います。そのため、対話を設けお互いに理解し合うことが大切です。その対話は当事者同士のみで行うと、トラブルになることもあるかもしれません。場面によっては、今回のように障害のある方をよく知る方にも、話し合いに同席してもらうことは大切です。  ※雇用分野については、改正障害者雇用促進法において、障害者に対する差別の禁止及び合理的配慮の提供義務が規定されています。 (17ページ) 6 行政 (1)公共施設での事例 障害者からの申出(身体障害) 「公共施設での講演を頼まれました。会場の入り口に3段の階段があるため、スタッフが担いであげます、車椅子をご使用の方にはいつもそれで対応しています、と言われました。しかし、私は電動車いすを利用しており、200キログラムを超えるので人力で上げることは不可能であると伝えました。会場に入るのに、どのようにすればよいでしょうか。」    講演会場となる公共施設に相談者が直接出向いて、事前の下見を行うこととした。その中で、スロープのある裏口を利用ができないか、階段をスロープに作り替えることや昇降機を新しく設置することはできないかなど、話し合いの場を設けた。 話し合いの場 (障害者、施設担当者、講演主催者) 行政機関からの合理的配慮の提供 施設担当者 『主催者側から提案のあった方法はどれも、大掛かりな工事が必要でした。しかし、施設は移転が決まっていたため、できませんでした。そこで、再度、3段の階段をご本人に確認してもらうと、階段前に十分なスペースがあったため、少し角度は急ですが、長い仮設スロープを設置することで大掛かりな工事がなく、対応できることが分かりました。事前に携帯スロープを主催者に借りてもらい、当日、会場に入っていただけました。』 ワンポイントアドバイス  この事例ではまさに、「建設的対話」によって合理的配慮の提供が行われた事例であると言えます。合理的配慮の方法は、一つではありません。申出のあった方法では対応が難しい場合でも、お互いがもっている情報や意見を伝え合い、建設的な対話に努めることで、目的に応じて代替となる手段を見つけていくことが大切です。 (18ページ) (2)児童向け講座での事例 障害者からの申出(発達障害) 「私の息子は発達障害があります。区市町村主催の児童を対象にした講座へ参加したいのですが、受け入れてもらえますか。」    相談を受けた区市町村職員は、事前の相談を受け付けることにした。そこで、どんな配慮が必要なのか聞き取りを行った。母は、発達障害に詳しい人をスタッフとして配置してほしいと申し出た。   行政機関からの合理的配慮の提供 区市町村職員 『申出を受け、参加を受け入れる方向で検討を行いました。発達障害者対象の事業にスタッフとして関わっている方を1名配置し、当該児童も安全に講座に参加することができました。』 ワンポイントアドバイス  発達障害は自閉症、アスペルガー症候群を含む広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などを指しています。知的障害を伴わない方が大半で、コミュニケーションが苦手な方が多くいらっしゃいます。近年はメディアで取り上げられることもあり、認知度は少しずつ上がってきていると思われます。しかし、発達障害のある方の困難さは多岐にわたるため、個別に対応を考える必要があります。そのため、この事例のように事前に相談をし、必要な配慮についてきちんと確認しておくことが大切です。  発達障害に限らず、難病や精神障害等、その特性が多岐にわたる障害があります。専門機関等に相談し、理解を深めることも、合理的配慮の提供を考える際、必要な視点といえます。 (19ページ) 7 災害時 (1)災害への備えについての事例 障害者からの申出(聴覚障害) 「難聴の障害があるため、通勤途中で電車事故のアナウンスが聞こえず、遅延等の状況を把握きませんでした。これでは災害等があっても状況判断が難しく、周囲の人の動きを見て行動するしかないことに気付きました。何か自分でできる対策はあるでしょうか。」  この方は上司に、この心配事を相談することにした。 事業者からの合理的配慮の提供 所属課長 『難聴のある職員との面談時に、職務遂行上や通勤上の困っていることを尋ねました。そこで、電車の遅延などを把握できない話や、災害への備えについて相談を受けました。そこで災害時バンダナというものがあることを話したところ、「知らなかった。そういうものがあれば携帯したい。」との申出があったので、携帯するよう提案しました。』 ワンポイントアドバイス  障害特性への配慮について聞き取りを行い、それに対応したことが合理的配慮の提供といえます。  今回の事例にあった「災害時バンダナ」は「耳が聞こえません」と「手話ができます」の2つの言葉が書かれており、聞こえないことを伝え、コミュニケーションの配慮を示すものです。大きな災害時に情報を得ることは、大変重要です。障害のある方々はうまくコミュニケーションが取れず、孤立してしまうことも考えられます。災害時、適切に情報がすべての人々に行き届くように、手話や筆談、点字、分かりやすい表現などの情報保障は、更に重要になってくることを念頭に置いておきたいです。 (イラストのすけだちくんが、「災害時の情報保障として知っておきたい知識だね」と言っています。) (20ページ) 第3 参考情報 〔障害者差別解消法に係る事例掲載について〕  今回紹介した事例のほか、東京都では平成28年10月24日(月曜日)から平成28年12月16日(金曜日)まで、「障害を理由とする差別を受けたと思った事例」や、「障害のある方への配慮の良い事例」等を募集し、その結果を公開しています。(東京都福祉保健局のホームページにある事例関係URLを表示) http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/tiikikyougikai.html  内閣府では、障害のある人も社会参加しやすくするための合理的配慮の提供等の事例(想定事例を含む。)を関係省庁、地方公共団体、障害団体などから収集、整理し、事例集として取りまとめています。 【合理的配慮の提供等事例集】(内閣府のホームページにある合理的配慮の提供事例集URLを表示) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/jirei/example.html 〔東京都障害者差別解消法ハンドブックについて〕  東京都では、行政機関や店舗等における対応の具体例を提示するとともに、様々な障害の特性についても分かりやすく説明するため「東京都障害者差別解消法ハンドブック」を平成28年3月、作成しました。 http//www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/shougai/shougai_shisaku/sabekai.html 〔国等職員対応要領、民間事業者向け対応指針〕  国では、府省庁ごとに職員向けの対応要領と民間事業者向けの対応方針を作成しています。各府省庁の対応要領、対応指針は、内閣府ホームページから確認できます。 【対応要領】(内閣府のホームページにある対応要領、対応指針関係のURLを表示) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioyoryo.html  【対応指針】(内閣府のホームページURLを表示) http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sabekai/taioshishin.html  〔障害理解等について〕  障害者理解促進のための東京都の特設サイト「ハートシティ東京」を開設しています。障害特性や障害者差別解消法の説明、ヘルプマークの紹介等が掲載されています。障害のある方が街中で困ったことの事例紹介もあります。 (東京都福祉保健局のホームページにあるハートシティー関係URLを表示) http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/tokyoheart/ おわりに  本事例集は、障害者差別解消法で求められている「合理的配慮の提供」、「不当な差別的取扱いの禁止」及び「環境の整備」について、より理解を深めることを目的としています。そして、共生社会、ダイバーシティの実現に向けて、様々な場面で取組が進むことを期待しています。  本事例集で強調したいことは、合理的配慮の方法は一つではないということです。申出のあった対応が難しい場合でも、建設的な対話に努めることが重要です。そうした対話がなされるには、誰もが、お互いを理解し合うという気持ちが必要不可欠です。そうした気持ちを一人でも多くの人々が持つきっかけになれば幸いです。    上記のように、障害のある方と事業者との対話によって、お互いが納得する合理的配慮の提供や、不当な差別的取扱いがなくなることが求められていますが、当事者同士の話し合いで解決が難しい場合は、相談機関に相談することも解決に有効な手段といえます。    今後も東京都は、誰もがお互いの個性と人格を尊重し、理解し合う社会の実現を目指していきます。  この事例集作成に当たっては、東京都障害者差別解消地域協議会の委員の皆様、障害者団体等の皆様、学校、事業者団体等の皆様からご意見を頂きました。貴重なご意見、ご提案をお寄せいただき、ありがとうございました。   登録番号 (29)303 障害者差別解消法 合理的配慮等の好事例集 (様々な場面における相談事例から) 平成30年3月 発行 編集、発行/東京都福祉保健局障害者施策推進部計画課 163‐8001 東京都新宿区西新宿二丁目8番1号 電話 03‐5320‐4559 FAX 03‐5388‐1413 印刷会社名/社会福祉法人 東京コロニー