トップページへ トップへ
児童虐待の実態
― 東京の児童相談所の事例に見る ―

は  じ  め  に

 幕末から明治にかけ日本を訪れた多くの外国人は、日本の子どもの笑顔とその元気な姿に強い印象を覚え、日本ほど子どもを慈しんで育てる文化を持った国はないと述べています。
 例えば、E.S.モースはその著「日本その日その日」の「1877年の日本−横浜と東京」で、「私は今までのところ、お母さんが赤ん坊に対してかんしゃくを起こしているのを一度も見ていない。私は世界中に日本ほど赤ん坊のために尽くす国はなく、また、日本の赤ん坊ほどよい赤ん坊は世界中にないと確信する。」と記しています。
 いま、東京を始め全国で児童虐待が大きく報道されるなか、こうした往時の日本の子育ての光景に接すると改めて深い感慨をおぼえます。当時の外国人の目に映ったこうしたわが国の子育ての姿、すなわち親が子を慈しんで育てればどの子も健やかに育っていくという「慈しみの子育て文化」は、消えてしまったのでしょうか。
 近年、児童相談所等に寄せられる「児童虐待」に関する相談件数が急増しています。特に、昨年11月、「児童虐待防止法」が施行されてから、その傾向が顕著になっています。件数が増えているだけではなく、悲惨な例があとを絶ちません。しかし、虐待について様々な見解が報道されながら、児童虐待の実態そのものの地道な解明はいまだ進んでいないというのが率直な印象です。
 児童虐待に関するさまざまな相談や通報に対し、児童相談所は、子どもを守り、健やかな成長を支援するため、子どもとその家族にとっての最善の処遇をめざし、日夜懸命の努力を重ねています。今後は、虐待の実態を都民に理解していただき、地域の人々や関係機関との連携をさらに強め、虐待の予防・防止に努めていくことが求められます。
 そのためには、「児童虐待」に最も深く関わり、その内容を把握している児童相談所自らが、その実態を明らかにしていくことから始めていく必要があります。その中で、子育ての文化が果たして変容しているのか、日本の子育てはどういう現状にあるのかも、自ずから明らかになることででしょう。こうした考えから、東京都は全国で初めて児童相談所が取り扱った児童虐待事例の詳細な実態分析調査を行い、公表することとしました。
 本書は、平成12年度における都内11の各児童相談所で取り扱ったすべての児童虐待の相談受理事例 1,940件について、児童票などに基づき、分析調査を試み、その結果を取りまとめたものであり、いわば「児童虐待白書」ともいうべきものです。この調査結果が、児童問題のさらなる理解と今後の取り組みに資するものとなることを期待したいと思います。

平成13年10月

東京都福祉局長   前 川 燿 男